労働争議鎮圧はまるで人間狩り。 | 朝鮮問題深掘りすると?

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初老の徳さんが考える朝鮮半島関係報道の歪み、評論家、報道人の勉強不足を叱咤し、ステレオタイプを斬る。

双龍自動車の労働争議が終わった。77日間にわたった双龍自動車の労働争議は、工場に篭城していた640人中48%の雇用保障という結果に終わった。組合員の総雇用という最初に掲げた目標どころか、77日間の工場篭城、7月20日からは水道、ガス、電気まで切られ医薬品の差し入れまで禁止されるなど、事実上の拘禁状態に置かれるなか生死をかけたたたかいは、結局、妥協を余儀なくされた。事実上の敗北であった。


敗北の原因は色々ある。まず、他労組の支援、連帯闘争が広がらなかった。金属労組の核心的位置にある現代自動車は、内部の混乱や上部団体との矛盾を整理できないまま、双龍自動車支部のたたかいに連帯ストを取ることもなかった。民主労総は自己の力量不足を恨む他なかった。


だが、最大の原因は警察権力の悪質でファッショ的な弾圧であった。事実上、孤立無縁な状態に置かれた工場篭城者には警察の鎮圧を押し返すだけの力が残っていなかった。しかし残っていたとしても、警察の鎮圧があまりにも悪辣であったことから、篭城ストを続けるのは不可能であった。


韓国の24時間ニュース専門サイトのYTNが、鎮圧の模様を「突発映像」として報映しているが、何故このような非人間的な鎮圧が世界で問題にならないのか不思議だ。日本を含めた世界のTV社が特派員を送っているのだから、知っていながら無視しているということであろう。北朝鮮の人道問題に強い関心を持っている米日だが、韓国との協調を叫ぶ以上、韓国での労働争議に対する韓国政府の非人間的弾圧は、「知らない」ほうが良いのだろう。そうだとしたら、実情を伝えないマスコミの言う「人道・人権」は嘘であり、米日のマスコミもまた韓国労働運動の敵と言うことになる。


YTNの動画には鎮圧を担当した京畿警察庁長が出演しているが、その発言に驚かされる。彼は発がん性物質で作られた催涙液について「われわれの周辺に発がん性物質の入った食べ物がどれだけあるか」「催涙液の原料はマニキュアにも使っている。催涙液を撒くのは香水を振りまくのと同じではないのか」と言い直り、対テロ用のテイザーガン(体に刺さった小さな鏃のようなものに電線がつながり5万ボルトの電流が流れる)を使用していることについては、「対テロ用には機関銃も銃も使うが、それを使うわけには行かないではないか」と言い、当たると卒倒するような威力のある弾(ゴム?)を発射する銃のように作られた「多目的発射機」については「先進国でもすでに暴動鎮圧用に使っている」と臆面もなく言い張る。


YTNの動画にはすでに抵抗しなくなったものに対して繰り返し盾で叩き、警防で叩く様子が生々しく現れ、まさに人間狩りの様相を呈している。映像には警官がハンマーを持っている様子も見られる。

百聞は一見にしかず。是非YTNの映像を見て欲しい。


http://www.ytn.co.kr/_ln/030201_200908071401425970


双龍自動車争議は、別の見方をすれば労働者の敗北と言うよりも政府の勝利だと言うこともできる。

もともと双龍自動車はすでに法廷管理下にあって労使間だけで問題を解決できるようなものではなかった。労組も会社側も選択の幅が最初から狭く、政府の介入が望まれたのである。だが、政府はまったく無関心で一貫していた。


韓国では自動車業界が構造調整を控えているといわれている。李明博政権も「雇用の流動性」を強調するのを忘れていない。法廷管理中の双龍自動車ほど大規模でなくても、したるところで多様な方法で人員の整理が行われることになろう。その結果全国で双龍自動車のような争議が起きる可能性が濃い。そうした中で政府は双龍自動車の争議を自動車業界の構造調整に利用しようとしたのである。


つまり双龍自動車争議は個別企業の「労使」ではなく、政府と労働運動つまり「労政」問題であったのだ。双龍自動車争議の結末は、労働争議の限界を見せつけることになったし、京畿警察庁長の発言と警察の非人間的鎮圧の模様は、労働者らに恐怖心を与えようとしている。

だが、李明博政権のそうした意図がはたしてどれほど成功するであろうか。すでにYTNの映像を見たネチズンらの声は、警察の振るう非人間的暴力に対する反発で埋められている。


韓国の経済状況も、労働争議が今後も続発する可能性を示唆している。韓国統計庁6月雇用動向を発表し、失業率は3.9%を記録したと言うが、民主党のカン・ウンテ議員はこれに就業準備生や、求職断念者を含めると6.66%にまで上がり、青年失業者も公式失業率は8.4%だが、実質上15.63%に達すると公表している。「新しい社会を開く研究員」(新社研)は週18時間未満者、追加労働希望者、就業準備者、休業者などを含めると実質的な失業者は11.18%に上るとしている。


新自由主義経済の破綻が明らかになったにも拘らず、韓国では公的企業の民営化、企業の統合による独寡占の強化など、引き続き新自由主義経済が跋扈しており、民生は破綻している。主要輸出産業である自動車産業の構造調整は待ったなしの局面にぶつかっている。今年後半にかけて労働争議は一層拡大するであろう。