駐中大使がスパイを雇いバレる。 | 朝鮮問題深掘りすると?

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初老の徳さんが考える朝鮮半島関係報道の歪み、評論家、報道人の勉強不足を叱咤し、ステレオタイプを斬る。

宮本雄二・駐中国大使が、国家機密漏洩(ろうえい)罪で懲役18年の実刑判決を受けた元新華社通信外事局長の虞家復被告(62)に対し、情報提供の見返りに計20万7千元(約300万円)を渡したと判決で認定されたことがわかった。

虞被告は、大使が公使時代の1998年に知り合い、食事などをする関係になり、(大使着任後の)2006年9月から翌年7月にかけ、宮本大使から複数回に分けて20万7000元(約300万円)を渡されたと供述。判決などでは、同被告が口頭で、(1)対北朝鮮政策の変化(2)中国銀行の北朝鮮への送金停止措置(3)北朝鮮の輸出優遇政策の変化(4)中国の外交政策-について情報を提供した、としている。

宮本大使は大使館を通じ、「外交活動の個別のやりとりについてはコメントできないが、現地の法令を尊重しており、何ら問題はないと考える」とコメントしている。

 判決は北京市第2中級人民法院(地裁)が今月5日に出した。起訴状は宮本大使の実名を記載したが、判決文は「大使館員」となった。中国では国家機密にかかわる裁判は非公開だが、関係者への取材で明らかになった。

 新華社は中国政府直属機関で、報道のほか、指導部向け内部情報を扱う。中国当局は情報漏洩の取り締まりを強めているが、外交官の情報活動がこうして明るみに出るのは珍しく、中でも一国の大使自身がかかわる形でスパイ罪が認定されたのはきわめて異例といえる。

 判決によると、06年11月8日には、北朝鮮が同年10月に核実験を実施したことに関して、北朝鮮への送金停止など中国の措置について情報を提供した。

 また、虞被告は03年7月から05年8月にかけ、中国駐在の韓国公使(当時)に対して、胡錦濤(フー・チンタオ)国家主席の訪朝日程や、北朝鮮の核問題をめぐる6者協議の米朝間秘密接触などの情報を漏らし、3千ドル(約29万5千円)、3千元(約4万3千円)とゴルフセットを受け取った。

 金品がどのような形で渡されたか判決は明らかにしていない。また、宮本大使や韓国公使は立件されていない。

「現地の法令を尊重しており、何ら問題はないと考える」との宮本大使のコメントは実に外交官らしいふざけたコメントではあるが、日本の情報収集の手口が一つ暴かれたということだ。もちろん日本の情報収集のルートがこれだけでないことは確か。駐在武官や領事などの多くが情報収集に血眼になっているだろう。問題は、被告の罪状が国家秘密漏洩罪だということだ。つまり宮本大使が金品で被告を引き入れ、スパイ活動をさせたということになろう。

しかも収集していた情報が、北朝鮮関係に集中していたことが注目される。北朝鮮はCIAが世界で唯一、ヒューミントをもてない国だといわれているが、関係が完全に遮断された状態のなかで、日本が北朝鮮の真意を測るのはほとんど無理。まして北朝鮮の論理や思考方法などについて考えようともせず、自分の思い込みにどっぷりとはまったまま、北朝鮮の動きを分析しようとするので、ろくな結果は出ない。かりに宮本大使が中国銀行の北朝鮮送金停止措置などについて情報を得たとしても、肝心の北朝鮮がそれをどのように受け止めているのかは、わからなかったであろう。

日本が北朝鮮情報を得るために、何度か一般人をスパイ活動に引き入れ、北朝鮮で摘発されたこともある。日経新聞記者や富士山丸などがそうした情報活動の末にスパイ罪で拘束された事件などが代表的だ。

むろんこうした情報収集は国家活動の一端だということも出来よう。問題は北朝鮮が、日本のこうしたスパイ活動を敵対行為として、受け止めているということだ。当然、そうした判断は北朝鮮の対日政策に反映されるであろうし、他の問題(従軍慰安婦問題や強制連行問題、関東大震災時の在日コリアン虐殺問題、浮島丸沈没問題、東海=日本海の表記問題、独島=竹島問題などの未解決問題)、つまり過去だけでなく、いま現在も解決されずにいる、つまり生きている問題群とも結び付ける可能性もある。

それだけに日本政府のこうした稚拙なやり方は、避けたほうが良い。スパイなどを使って人の腹を探ろうとせずに、堂々と外交的交渉を通じて問題を解決していくなかで、お互いの考えを把握していくという王道を歩むべきではないか。

それにしても大使たるものが直接スパイ工作をし、しかもばれてしまったとは、実に嘆かわしい事態ではある。いずれ「好ましからぬ人物」として国外追放という事になるのではないか。その前に進んでお役ご免を言い渡し、早速に後任を送ったほうが良いとも思うがどうか。

それにしてもTVメディアが、この問題を大きく扱っていないことに疑問を感じる。日本の大使が新華社通信外事局長を使って、外国でスパイ行為をおこない、大使に利用された被告が懲役18年の実刑を言い渡されたのであるから、重大事件であろう。にも関わらず、その重大さに見合った報道がなされないのはなぜか。