ガクッと力が抜け、平手が顔を上げるとその目は明らかに別人の目であった。ねるが驚いた顔をしていると平手は見たこともない不気味な笑顔を見せる。
「あなたは誰?」
ねるにあるのは恐怖心。目の前にいるのは最愛の人であって、そうではない。
『僕だよ。ねる。』
平手は誘惑するような眼差しでねるに近づく。そして、キスを誘うように唇を舐め、距離を詰めてくる。
「、、、んっ、、、、、ちょっ、、、、、、ん、、、、、」
2人の唇は重なり、部屋中にリップ音が響く。
「ん、、、、、はぁ、、、、、んっ、、、、ちょっと!す、ストップ、、、」
ねるは平手を無理やり引きはがした。見た目は一緒であっても中身が違う。
「誰なの?」
ねるが聞くと、また平手の目の色が変わる。今度は鋭く、冷たい。
『友梨奈に近づくな。』
声は低く、目と同様に冷たい。その両方は、聞いている人の背筋をぞくっとさせる。この人格は、平手自身を守る人格のようだ。
『友梨奈にお前は必要ない。俺たち家族がいれば十分だ。』
平手の人格はそういうと同時にねるの首に手をかける。しかしその手は震えていて、力が籠められることは無く、ねるを苦しめることはなかった。
「どうしたら、てっちゃんに戻ってくれるの?」
ねるが懇願すると、平手はあからさまにイライラしている。
『、、、、、はぁ。』
ため息をつくと先ほどと同様に力が抜けた。その拍子にねるに倒れこんでくる。抱きとめるとしばらくは目を覚まさなかった。
今出てきた人格が凶暴で平手を守る人格だとすると人格はもう一人いることになる。
ねるが考え事していると、平手が息を吹き返したかのように大きく息を吸った。
『ねる。、、、、、今、大丈夫だった?』
てっきりもう一人の人格が出てくるのかと思ったら、平手が戻ってきた。
『ごめん。ほんとに。あいつが僕を守ろうとしたことなんだ。』
平手は申し訳なさそうにしている。
「大丈夫。、、、、、キスは、、、されっちゃったけど。」
『それは、、、、、僕の体だから、いいでしょ?』
平手はねるが気にしていることに笑みをこぼした。
「でも、、、、、中身の人が違ったでしょ?、、、、それに、キスの仕方も違った。」
『、、、、キスの仕方、違ったの?どんな風に?』
それは平手でも知り得なかったことだ。人格によってキスの方法が違うなんて、世界中で知っている人なんているのだろうか。平手は興味津々だ。
「さっきのてっちゃんは、なんだか手馴れてる感じがしたかな。、、、、、キスし慣れてる感じがした気がすr、、、、、、ん、、、、」
平手はねるの話を遮るようにキスをした。
『こんな感じ?』
「ん~、もうちょっと、違うかな~」
チュッ、、、、、チュッ、、、、
『どう?』
平手はねるから唇を離し、どこか自分の違う人格に対抗するように聞いてくる。
「まだまだ。」
ねるは自ら唇を寄せた。
『もしかして、、、キスして欲しいだけ?笑』
平手がそう聞くと、ねるはいたずらっ子のように笑った。
「ん〜、、、駄目?」
『駄目じゃないけど、話も聞いて欲しいんだけどな〜。』
ねるは平手が言った話を聞いて欲しいという言葉で、1度身を引いた。
「確かに。そうだよね。」
ねるの姿を見て、またもやいたずらっ子のように笑った。
『今日は、、、、もう遅いから、キスして寝る?』
平手の提案にねるはニコッとして、唇を寄せる。
「んっ、、、、最高かよ。」
部屋にリップ音が響いて、静寂に包まれた。