知らない街を歩くのは

幾つになっても楽しいものだ。

 

大都会のど真ん中に

意外なものを見つけることが

あるのも

 

その魅力の一つかもしれない。

 

過去から江戸の宿場町として栄え

数多の人が往来した街道は

今や大きな大きな道路となり

日々たくさんの人や車が往来する。

 

世界一乗降客数が多い駅から

程近い場所なのに、

 

不思議と人の気配がない

そんな場所に居を構えて

 

単身赴任の準備金を

余すことなく使って

購入した家電や掃除道具

布団などのセッティングが終わり

 

ああ、あれもない、

おお、これもいるなと

100円に均一さえてる店で

これって本当に100円で

買って得なのか?と

疑問を抱きつつ揃えて

 

誰もいない一人の部屋で

ふと一息ついた昼下がりに

 

ああ、そうだ、

出歩いてみようか。と思い

 

いつもの通勤ルートとは

違う道を辿って

この街のディディールを

少しでも体得しようと

 

気の向くままに

歩みを進めた。

 

かの有名なアニメの

舞台になった

スクランブル交差点だったり

 

孵化する前の繭を模した

楕円の建物を望みつつ

 

元々の地形が

地下地上の定義を

曖昧にした遊歩道を歩き

 

人はいるのだが

驚くほど静かな公園を

眺めつつ

細路地に入っていく。

 

そこには林立するビル群と

素晴らしいコントラストを持つ

時代に取り残された古い家が

ひっそりと立ち並び

 

車どころか人が通るのも

やっとこさの道沿いに

通用門を設けているほどに

 

時代の狭間にポッカリと

落ち込んでしまったような

風景が存在し、

 

異世界に迷い込んだような

違和感を抱いては

都市開発の難しさを体感する

 

知らない街を知る

知った風景に刻み込む

そんな遊歩の道中に

 

小さく光る

ショウルームを見つけた。



ギギギ、と音がする扉を開くと

そこはこぢんまりとした

雑貨屋さんだった。

 

誰かが求めたから

そこに存在するのだろうが

 

その店の珍妙なラインナップに

つい、眉をひそめてしまう。

 

雑貨というのはその名の通り

その他大勢、の響きがあり

 

あれもこれもも

並んでいる坩堝のショーケース

 

しかしどこか面白く

つい、手に取ってしまう。

 

狐柄のタオル

電球型のLED照明

書類を入れるサブバック

メラニン性の皿

コーヒーソーサー

 

誰がいつ使うかわからない

それらの商品が一塊になり

ドナドナと運ばれる準備か

コンテナに並べれていた。

 

牛丼2杯とちょっとの価格で。

 

一人の暮らしが思った以上に

寂しかったからだろうか

 

それとも

つい出来心だったのか

 

欲しいからでもなく

困っていたからでもないけども

つい手に取ってしまった。

 

商売っけのない性別不詳で

年齢不詳の店員に、

札1枚と硬貨2枚を手渡し、

彼らを小脇に抱えて店を出た。

 

誰かの何かの目的のために

作られたそれらの商品を

家に帰って並べてみる。

 

役割を考えてみるけども

どうしたもんか。

 

結局並べただけで、

数日過ごし

 

次の掃除の時に丁寧に梱包して、

納戸の奥に隠すように押し入れた。

 

それから8年ほど経った今、

彼らはどこに行ったのか。

 

どっこい仕事が生まれている。

 

狐柄のタオルは

長距離ドライブには欠かせない

眠気を覚ます時の顔拭きとして

 

電球型のLEDは

僕のクローゼットを

柔らかく照らし

 

書類ケースは

B5のPCを優しく包んでいる。

 

メラニンの皿や

コーヒーソーサーは

食器棚に鎮座している。

 

世の中に望まれて

作られたものは

 

結局いつか、どこかで、

仕事が回ってくる。

 

それが、すぐかもしれないし

時代が流れて、かもしれない。

 

彼らの存在は、

とても示唆に富んだものだな、と

思うと同時に、

 

あの不思議な街に

存在した自分の記憶を

いつまでも引っ張り出してくれる

メモリになっていて

 

あの日遊歩した街の

匂いや音や風景を

いつまでも思い出させてくれる。

 

未熟で前のめりで

不格好で失敗だらけだった

あの日々があるからこそ

 

君たちと出会ったあの日が

あったからこそ

 

今日という日が存在する。

 

今もあの街は誰も拒まず

去るものを追わず、

鎮座していることだろう。

 

またいつか、と

思う時もあるけども

 

きっと、そんな時は

きっともう、訪れない。

 

不可逆さは、学生だけの

特権じゃないんだよね。