お彼岸 | 余命3ヶ月だったバンドマン

余命3ヶ月だったバンドマン

Candy Vox Music 統括とLa'cryma Christi LEVINさんのローディー ケンツのBlog

初彼岸です。
いつも通りお花を飾って、ケンツの買い溜めたお菓子をお供えしました。



入院する前の週末の1月7日、唐突に「とみ田」に食券を買いに行った帰りに、珍しくスーパーに寄ってきたらしく、大きなポテトチップスとポップコーンを買ってきた。
私が
「スーパーに買い物に行くけど欲しいものある?納豆と?」
納豆ごはんだったらなんとか食べれるようになっていた頃で、それまで食べていた納豆では量が多く、カップの3個入りを指定されていた。
「レタスときゅうり。あと、ジャイアントカプリコ。」
珍しく返ってきた。
「1個でいいの?」
「2個以上」
「じゃあ、1個私ので3個買う。良い?」
何でも共有したかった。
特に、ここ最近はそれが強くなっていたような気がする。
ここ半年程は食欲も無く、いつも「要らん」のケンツだったので、お菓子でも興味を示すのが嬉しかった。
入院してからも、
「ポテチおっきいのあったら買っておいて」
買っておいたのに、食べないで逝っちゃうし。
入院当日も
「ポテチ買ってきて。うす塩かコンソメ。Wとかコイケヤだったら要らん。あと、グリコ。」
指定の商品が無く、結局Wで良いと。
日にちは空いたけれど完食してあった。
グリコは前回の退院時にも
「懐かしいなー。久し振りに食べたいなぁ。」
と言うので、近所のお店を探し回った。
意外と置いてないもので、今回も15件は探し回った。
ネットで買うと言うと要らんと言う。
しかし、欲しいものを訊くとグリコと。
お手上げ状態で会社で相談したら、ロフトの時にも顔を出して下さった方が翌日買ってきてくれた。
仕事後に早速持って行ったのに、なかなか手をつけないので
「せっかく買ってきてくれたんだから、開けてみたら?」
食欲が無いことも心配だったので、促したが、結局開けず終いだった。

自分の好きなものや外食だといつもより食べれていたので、休日はなるべく「何処か食べに行こう?」と連れ出した。

1月6日、仕事を終えて急いで帰ると、自分でお湯を張って珍しく早目のお風呂に入っていた。
体調以外は見たいテレビ番組でお風呂の時間が左右された。
リビングに行くと、これまた珍しくマックの形跡が…
私があまり食べさせたがらなかったので、久しぶりだったと思う。
空になったポテトのケースと飲みかけのコーラと『エグチ』がテーブルにあったので
「ごはん食べたの?」
訊くと
「うん」
ケンツが亡くなった後で片付けていたらレシートが出てきて、ランチでフィレオフィッシュセットにプラスして買ったらしかった。
夜、寝る前にいつもの確認。
「朝ごはん何時?8時で良い?」
普段あまり起きてくれず、私が仕事に行く前に食べてくれることが少なかったので、少し意地悪で普段より早目の時間設定で言った。

冬頃は早目に目が覚めるのか、私に気を遣ってだろう、ベッドでおとなしくゲームをしていることもあったけれど。

この時は珍しく
「うん」
確認したが、それでいいとの返答だった。
「何食べる?いちご?」
「マクドあるやろ」

1月7日の朝、既にやり取りがあったので
「本当に『エグチ』で良いの?」
と確認した。
「お昼はどうする?」
準備をする為、早目に確認する。
「食券買いに行く」
(ん?)
寝ぼけているのかと思い、再び
「お昼どうする?」
「とみ田。今から食券買いに行く」
以前、私から話したことがあり、ケンツの気まぐれで「行こうか」という話になったこともあった。
しかし、営業時間やらの関係で叶っていなかった。
「待って!じゃあ、すぐ準備する!」
「すぐ行くから無理」
左耳が聞こえないし、少しふらつくケンツが心配だったのにきいてくれない。
仕方なく、
「無理しないでね。掴まりながら行くんだよ?」
「普通でいいんやな?」
「メニュー何あるか分かんない」
「LINEして」
そんなやり取りの後、一人で出掛けて行った。

11時半頃再び松戸に向かった。
思った以上に早く着いてしまい、コンビニに寄った後、お店の前の椅子に座って待った。
13:15に呼ばれるらしいとのこと。
カイロを置いてきたことを後悔した。
冷えてしまうのが心配で、脚を擦ったりマッサージしたりした。
お店に入ると、事前に伝えてあったらしく、つけ麺小が目の前に置かれた。
ケンツは煮卵トッピングでつけ麺の普通にしたのだが、チラッと見ると太麺に苦戦しているのが明らか…
(二人とも残したら気まずい!どうにか食べきって手伝わないと…!!!)
ケンツもどうにか1/3は食べようと必死に頑張ったらしい。
私もケンツのを一っ箸…が限界だった。
初めてつけ麺を食べに行ったのでシステムが分からず…
スープ割を訊かれた。
断りかけると、意外にもケンツが飲みたかったらしいが、食べきれていない。
私のでネギと柚子を足してスープ割にして貰った。
勿論、飲みきれる筈もなく…結局私が無理をした。
スープも美味しいし、麺もモチモチで味も美味しい。
けれど、どうにもボリュームがありすぎた。
店内のお客さんは女性でもスープ割まで完食していた。
帰り道、歩きながら
「ガタイのいい男がまさか残すなんて思ってなかったやろうな」
と自分で言っていた。
「もう食べれん言った時『えぇっ?!』て顔しとったもん」
「私も『この人病気で』って何度言おうと思ったことか…。私ももう少し食べれると思ったんだけど…撃沈」
量が分からなかったとは言え、お店の方には申し訳無かった。

行く前に
「昨日決めたの?何で急にとみ田?」
「一生に一度やから」
「…私なんて、一生に一度も行かないと思ってたよ」
一瞬ドキッとした。
近頃の体の変化からの残された時間のことを言っているのかと思ってしまって慌てた。

二人ともお腹いっぱいを越していたと思う。
けれど、せっかくの松戸。
松戸といえばで、赤シャリでケンツ一番お気に入りの『もり一』を夜ご飯に持ち帰ると。
完全に体の冷えきった二人だったが、温かいお茶を戴きながらできるのを待った。
夜もお腹が空かず…
「食べる?」
「まだいい」
繰返し。
ケンツも薬があるしと、23時頃急に
「食べる」
「私はまだ食べれないから、準備するから先に食べて」
お醤油の匂いに刺激されたのか、少し遅れて合流した。



5日後、まさか、あんなに歩けなくなるなんて思ってもみなかった。