BGM:John Lennon『(Just Like)Starting Over』
話は9月14日にさかのぼります。その日は大阪・なんばの「カウント2.99」さんで『プロレス きょうは何の日?』の販促イベントでした。参加していただいた皆様のプロレス記念日を聞かせていただき、それについて語るうち2時間半があっという間にすぎていったのですが、イベント後もしばらくお店に残り、個別に話しました。
その中のお一人がプロレスファン歴の長い方で、新生UWFの話となりました。そして、どちらからともなく同じ思いを口にしたのです。
「当時、UWFを見て熱狂していたのに、今になって『本当は面白いと思っていなかったのに、じつは面白いというふりをして見ていた』とかいう人がいるじゃないですか。どうして自分の過去を否定するような手のひら返しをするんですかね? 私は、総合格闘技を通過してきた今でもUWFは面白かったと思いますし、夢中になれてよかったと思っていますよ」
30年も時が経てば、現在の価値観とのズレを埋めるべくあとづけはいくらでもできます。もちろん、立場によって受け取り方は違ってきますから、関わった者たち一人ひとりの中にある“真実”が同じでないのは理解できますが、リング上の試合については、時代が変わったからといって価値は落ちぬはず。
この数年、UWF関連の書籍が数え切れぬほど出版され、歴史の中へ埋もれていた宝の山が次々と発掘されています。けれども、それによってリアルタイムで自分の中に刻まれた価値が変わるのは、違うと思うのです。
あの日、あの時、あの場所で得られた思いこそが、その人にとって不変の真実なのですから。会話の中で、私はこう言いました。
「こんなことは不可能でしょうけど、もしも今UWFの試合映像に実況をつけて世に出せたら、私は当時見ていた方にも、そして伝説としてでしかUWFを知らない世代の方にも、UWFの何が面白いのか、どこが見るべきポイントなのかを言葉で伝える自信があるんですが…」
新生UWFはテレビがついていなかったため、ライヴに足を運ぶ以外は株式会社クエストがリリースしていたビデオソフトでしか見られませんでした。当時は1万円以上するにもかかわらず、爆発的に売れたのです。
ただ、UWFのソフトは実況・解説が入っていませんでした。そこがテレビ中継との違いであり、また会場の雰囲気やリング上のリアルな音、そして選手の息づかいがダイレクトに伝わるので、特に違和感はなかったのです。
むしろ、実況なしの方がUWFらしいと思えるほど定着しており、ニコニコプロレスチャンネルで「ハードヒット」を中継するさい、主宰の佐藤光留選手はそのスタイルを踏襲していました。ただ、旗揚げから30年も経過したのですから、リアルタイムで見ていない人の方が圧倒的に多い。そういう層には、実況と解説ありの方が理解しやすく伝えられるでしょう。
まったく同じ形式で出すよりも、時代背景やその後の歴史、何より既存のプロレスとも総合格闘技とも違うルールのもと繰り広げられた試合について、楽しむためのポイントをこちらから提示することで見る人の理解と満足度を高めてもらえるはず…そんな思いを持っていたのです。
新生UWF DVDの復刻版がクエストさんからリリースされる報を目にしたのは、そのイベントから数日後のことだったので本当に驚きました。なんというタイミング!と思ったあと、なぜこのタイミングなのかと自分なりに考えました。
ひとつは前述通り、今年が旗揚げ年(1988年)から数えて30周年であること。そしてもうひとつは…さる6月5日に65歳で逝去されましたクエスト・木暮祐二社長の存在と遺志がそこにあったのだと思います。
クエストという会社はUWFから始まったと言えます。VHS→DVDとメディアが変わってもプロレス、格闘技、武道等の映像ソフト製作の第一人者的役割を長きに渡り担い続けてきました。
U系の選手・関係者でお世話になっていない人間を探す方が難しいと思われるほど、生前の木暮社長は尽力され、情熱を注いでおられました。それはリングス、UWFインターナショナル、プロフェッショナルレスリング藤原組の三派に分裂したあとも変わりませんでした。
私自身もリングス・オランダ遠征のさい、現地で取材しやすいよう導いていただいた恩があります。年長者である木暮さんが、旅のムードメイカーとして選手と取材陣の間の空気を和らげてもくれました。
それほどUWFに深い思いを持っていた木暮さんが遺した作品の数々を、埋もれたままにはしたくない。そして後世に残す使命がある――社を受け継いだクエストのスタッフさんたちが、そのような思いに駆られたのは容易に想像できます。
かくして11月20日より『The Legend of 2nd U.W.F. 』シリーズがリリースされます。一作品に2大会収録され、初回は2作品分、そして12月以後は毎月1作品ずつ復刻される予定で、全31大会148試合分の伝説が蘇るのです。
常々思っていたこと、さらには数日前に会話したことを形にできまいかと私はクエストさんにお願いしました。しかしそれは、理想だけが先走った浅はかな考えでした。
このシリーズは過去にリリースされた映像の復刻版です。そこへ実況や解説、あるいは副音声という形でも新たに収録するとなると、スタジオを押さえ、試合音とのミックス作業を施し、DVDオーサリングをやり直して新たな原盤を作らなくてはならず、膨大な費用を要します。
あの頃の実況なしだからこそ味わえる臨場感を求める皆様、ご安心ください。今回の復刻版は、VHSで見ていた頃のUWFそのままに楽しめます。
とはいえ、なんとか別の形であっても自分の言葉でUWFの魅力を伝えられまいかとかけ合ったところ、クエストさんとニコニコプロレスチャンネルさんのご理解を得た上で今月より「The Legend of 2nd U.W.F.シリーズ発売記念番組 『これがUWFだ!』」をスタートしていただくことになりました。
基本、毎月新作がリリースされる1週間ほど前にニコプロで試合映像のダイジェストを流し、それを見ながら当時を振り返るという内容です。11月は2作品(88・5・12後楽園&6・11札幌と8・13有明&9・24博多)が出るので、12日の第1回番組では4大会分の試合の中から数試合をピックアップします。
若き日の前田日明、高田延彦、船木誠勝、鈴木みのる、田村潔司、そして藤原喜明というUWF戦士の姿がダイジェストながらニコプロで見られます。もちろん、試合映像を流したあともコメント機能を通じ視聴者の皆さんとUWFについて語り明かす時間もたっぷりとあります。なお同番組は全編無料ですので、会員登録されていない皆様も参加可です。
実況あるいは解説として自分の声を入れる形ではありませんが、こうして復刻DVDの存在とUWFについて知ってもらうべくやらせていただくのは無上の喜び。何よりも木暮社長に恩返しさせていただく機会を与えてくださったクエストさん、ニコプロさんに心より感謝しています。
本来ならば、よりふさわしい識者の方々がいらっしゃるのは重々承知しています。それでもUWFによってこの業界に導かれ、週刊プロレスの記者という立場からあの時代を追っていた人間の話として、耳を傾けていただければありがたいです。
でも…そんな個人の思いよりも、今のファンにUWFの素晴らしさを知ってほしい。先人たちが過去に築き上げてきたものの価値を理解した上で現在のプロレスを見ることによって、より楽しめるからです。
なお、この復刻DVDシリーズではUWF Tシャツが必ずもらえるキャンペーンも実施されます。当時の団体ロゴマーク、旗揚げ戦ロゴ、そしてシンプルな“U.W.F.”の3文字と、どれもUWFファンにとってはたまらないものとなっていますので、DVD購入時についてくる応募券を集めてお送りください。
さらに、1作品ごとにリーフレット「月刊U.W.F.通信」が封入されており、こちらも執筆させていただくことになりました。毎回、2大会分にまつわる当時の時代背景やエピソードを2500文字ずつ表裏に書いていますので、こちらも併せて楽しんでいただけたらと思います。