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「挨拶は、いつ行くの?」

 

「あさって」

 

「どうやって?」

 

「あ、私は、バスで」

 

「俺は、車で」

「送るわ」

 

「え?」

 

 

と、声をあげたのは、

私でもジミンさんでもなく

ジンさんだった。

 

「ヨンヒヤ、あさっては」

 

「ジミニ、1人では

行かせられないでしょ」

 

「あ、いや、ヌナ、大丈夫」

「送るから」

 

・・・なんだろ

 

「ヨンヒヤ、」

 

「時間は、またとるから」

 

「ダメだ。あさって行くんだ」

 

「ジミニを送るのが先よ」

 

「1人で行けるだろ」

 

ちょっと・・

空気がピリピリしてきた

 

「何かあったらどうするの?」

 

「ヌナ、ほんとに大丈夫だよ、

俺行けるから」

 

「本人がそう言ってるんだから、

行く必要ない」

 

「そうはいかないでしょ」

 

「もう、マネージャーじゃないんだ」

 

・・・・


ジンさんが、

ここまで強く言うとか

 

「マネージャーなんて思ってないわ、

ただ心配なだけで」

「俺には言い訳にしか聞こえない」

 

 

・・・・・。

 

「ジミナ」

 

「な、何?」

 

「時間、決まったらカトクいれて、

ごめんなさい、私、帰る」

 

 

「ヨンヒヤっ」

 

席を立ったヨンヒさんは、

バッグを手に取って玄関に向かった。

 

慌てて立とうとした

私の手にジミンさんの手が重なる。

 

「で、でも、」

 


同時に席を立った

ジンさんが追いかけて

 

 

 

 

 

ガチャンとドアが閉まる音の、

しばらく後で戻ってきた。

 

 

軽く口をとがらせて

 

「俺、どーやって帰ればいいんだよ」

 

 

・・・・・。

 

「ちゃんと、送るよ」

 

「お前、飲んでなかったのか?」

 

「俺が飲んだら、帰れないでしょ」

 

「おぉぉぉ」

 

大げさに拍手をしながら席についた

ジンさんのトーンは、

いつもと変わらないけど

 

「・・ヌナ、あさって何があったの?」

 

ジミンさんの声に

 

あぁ~っと

少し、困ったように笑いながら

 

「ヨンヒの父親と会う事になってるんだ。

忙しい人だから、ようやく、時間がとって

もらえたんだけど」

 

・・・ヨンヒさんのお父さん

 

「あぁ・・関係悪いって言ってたもんね」

 

ジミンさんの言葉に

息をついて頷いたジンさんが

 

焼酎が入ったグラスの縁をなぞりながら

 


少し、寂しそうに

 

「俺が、一緒に行くのに

・・何、怖がってんだか」

 

怖い・・か

 

 

“家族”と会うのに。

 

「ヨンヒさんにも怖いモノがあるのね」

 

スズさんの言葉に

 

吹き出したジンさんが

 

「ヨンヒは・・怖がりだよ」

 

続いた言葉

 



「怖がりで・・すぐ泣くし」

 

「それは、スズも一緒だ」

 

ユンギさんが続いて

 

「ん~・・そこは否定できないな」

 

スズさんも頷く。

 

「ジウは・・」

 

 

ジミンさんが1度、こっちを見た。

 

「間違い電話だって気づかずに

しばらく話す」

 

!?

 

ジンさんの窓ふきが始まって

 

「あと、なんだっけ?あ、

玄関に荷物を置いて外に出るし」

 

ユンギさんが

声も出さずに笑い始めた。

 

「雪だるまつくったら、

なぜか地面に埋もれてる」

 

むぅ。

 

「でも、ジミンさんより

花札は断然強いです」

 

「花札?」

 

「はい、花札、私が全勝でした。

全勝したからジミンさんには

“執事”の役をしてもらいました」

 

「“執事”?」「しつじ?」「ジミナが?」

 

3人が盛大に笑って

ジミンさんが両手で顔を覆って

 

 

 

私は・・勝ったと思った。

 

 

 

結局、ヨンヒさんも気になるので

21時でお開きになったけど、

 

「なんで花札の事、言うの?」

 

テーブルのお皿を重ねながら

 

「だって、ジミンさんだって

間違い電話の事言いました」

 

「あれは、・・・もう、いいよ」

 

「怒ったんですか?」

 

「怒ってないよ・・ってか、

結局、なんの集まりだったんだろう」

 

・・たしかに。

 

「とりあえず、明日は

買い物に行かなきゃ。

お義母さんには、

ほんとにコスメでいいの?」

 

「はい、それは、間違いないです。

オンマから聞いたので」

 

「ん、わかった。・・時計とか

買わなくていい?」

 

「いらないですよ」

 

「でも・・」

 

「大丈夫です。問題は・・アッパです」

 

欲しいモノ聞いたら

“ジウ”しか返ってこなかった。

 

「・・不安しかない」

 

「だ、大丈夫ですよ。別に、

結婚の挨拶じゃないんですから」

 

「俺は、そのつもりで行くよ」

 

「え?」

 

「あっ、ジウの話の時は

そばにいるけど。俺は、ジウと

一緒にいる事を許してもらう」

 

「でも・・結婚は」

 

「もちろん、それは、先の話だけど

・・たぶん、俺と付き合う事が、

どれだけのリスクがあるか

考えると思うんだ。だから、今、

ちゃんと許可をもらう必要があると思う」

 

「ジミンさん・・」

 

「大丈夫。ジウヤのお義父さんだし」

 

「・・そーですね、アッパも

ジミンさんと同じ釜山出身ですから

きっと、大丈夫ですね」

 

 

「・・え?」

 

え?

 

 

 

「釜山・・出身なの?」

 

「はい。あれ、言わなかったですっけ?

私は、見た事ないんですけど

オンマ曰く、怒った時は

“釜山”が出るらしいです。

よく、わかんないですけど、

怖いって事なんですかね?」

 

「へ、へー・・・・」

 

「だから、大丈夫です」

 

「・・・・ソーダネ」

 

 

 

 

 

 

~・~・~・~

 

 

連絡が来たのは

 

日付が変わって

2時間が経った頃だった。

 

スマホに写っていたのは

 

イチカさんといちごちゃんと

 

 

目が赤いまま笑うテヒョンさん。

 

 

 

・・・・。

 

「よかったですね」

 

「ん」

 

 

 

思わず手を伸ばしたのは

ベッドサイドに腰かけたまま

スマホを見続けるジミンさんの肩が

震えているのがわかったから。

 

 



ジミンさんが

小さな男の子に見えた。

 

 

「幸せな夜ですね」

 

「・・ん」

 

「ジミンさん」

 

背中を抱いていた私に

向き直ったジミンさんの

柔らかい髪に指を通す。

 

「大丈夫です。怖い夜は

・・もう、終わりました」

 

朝がきます。

 

もう、幸せな事しか起きません。

 

苦しいほどに私を抱きしめ、

必死で声を殺すジミンさんに

愛しさは募るばかりだった。

 

 スター V




 

☆☆☆☆☆☆☆