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「・・私は」

「別れないよ」

 

 

「え?」

 

 

「俺、ジウヤと別れないから」

 

・・・・。

 

「色々、考えてカトクも

送れなかったって言ったでしょ」

 

 

「・・はい」

 

ふぅと息をついたジミンさんが

 

私の前に膝をついた。

 

「俺・・」

 

とられたのは左手。

ジミンさんの指が

なぞったのは

 

 

私の薬指

 

「ジウヤと結婚したい」

 

 

ドクンと心臓が打つ。

 

 

ジミンさんと出会って、

 

辛くなる度、

寂しくなる度、

悔しくなる度、

空しくなる度、

 

ジミンさんの声を聴いた。

 

交わらないと思っていた道が

 

いつからか

 

らせん状に重なりだして・・。

 

 

 

温かい手の温度を感じながら

ジミンさんの言葉を待った。

 

 

 

「ジウヤの隣にいると、すごく

幸せなんだ。苦しくても、悲しくても

空しくても、・・楽しい事があっても

ジウヤに会いたくなる」

 

・・・・。

 

「ずっと、一緒にいたいと思った。

結婚・・したいって。

でも、ある人と話して、

気づかされたんだ」

 

ある人?

 

「俺が結婚したいのは・・

俺だけのモノにしたかったから。

誰にも、渡したくなかったし、

俺だけを見ていてほしかった。

だから・・その為には

“結婚”しかないって・・

結局、自己満足の為で・・」

 

・・・・。

 

「逆にジウは、俺が傍にいる事で

つらい思いをするんじゃないかって

・・ほんとに、恥ずかしいけど、

言われるまで、そんな事、考えなかった」

 

 

「辛い思い・・」

 

見合っていたジミンさんは

視線を落としたけど、

握る手に力が入った。

 

「テヒョンイとヌナの事件は

極端なケースだと思うけど

・・やっぱり、いつも見られるし、

ある事ない事書かれたり、

ひどい言葉を受けたりするのは

あると思う。もちろん、

俺が守るって言いたいけど、

ジウは、きっと我慢して

“大丈夫”って言うんじゃないかって。

それに・・夢も

邪魔しちゃうんじゃないかって」

 

 

「私の夢は」

 「ジウヤには、立派な夢があるでしょ。

幸せを願って想いをのせられる

アーティスト。でも、俺が傍にいたら

それも、できなくなるんじゃないか・・

・・とか考えたり」

 

 

こんな時まで・・

 

「でも・・どんなに考えても、

別れるとか・・できない」

 

 

“おそろい”だった。

 

 

 

イェナオンニが言った

“ありえない”事。

 

正直、お昼までは

その言葉に負けていた。

 

 

 

あの2人に会うまでは。

 

 

 

新規のお客様だった。

 

カウンセリングシートに

書かれた名前を読み上げた後、

私より先に女性が口を開いた。

 

 

2人は出会って3か月しか

経っていない事

 

そして、

 

 

命の時間が短い事。

 

 

新郎は、進行性の難病を発症していて

新婦は、末期の乳がんだった。

 




 

“こんな事するって

ありえないですよね”

 

 

そう言って笑う2人は

たくさんの言葉を受けた。

 

 

“間違ってる”

“苦しむとわかっているのに”

“結婚がしてみたかったのか”

“保険金目当てなんだろう”

 

 

でも、誰の言葉も届かなかったのは

 

 

告げられた未来に

流す涙も涸れ果て

心臓が動いていただけの

からっぽの身体を埋めたのは

誰でもない、

お互いの存在だったから。

 

 

向き合って笑う2人は

相手が生まれてきてくれた事

生きていてくれた事

自分を選んでくれた事に

感謝して・・

 

覚悟を持っていた。

 

 

目を閉じる、

最後の瞬間まで一緒にいる。

 

 

 

 

 

私が好きになった人は

世界で活躍するアイドル

 

たくさんの人を

その笑顔で、声で、

パフォーマンスで

幸せにしている。

 

 

でも、

 

朝が苦手で、負けず嫌い。

すぐ拗ねるし、

やきもち焼きで

意地悪な時もあるけど

それでも、底なしに優しくて

謙虚で、一生懸命で

一生懸命すぎて、

あまり、自分を

褒めてあげられないけど。

 

とても

 

可愛い人。

 

 

 

辛い事は、半分こにして。

鎖をほどいてくれた。

 

今まで知らなかった気持ちも

景色も、全部、教えてくれた。

 

私の後ろに立つジミンさんは

迷う私を、いつも優しく、

抱きしめて、大丈夫だよって

背中を押してくれる。

 

私は、

 

出逢えたんだ。

 

 

どれだけ、

世間が“ありえない”と言ったって。

 

私の気持ちは変わらない。

 

そう、伝えたかった。

 

 

「ジミンさん」

 

口を結んだまま、

ゆっくり上がってきた視線。

 

私が覚悟を持てばいい。

 

 

私も“おそろい”です。

 

 

ジミンさんと

離れたくないです。

 

 

苦しくなるぐらい

 

 

「愛してます」