【11:00】

 

 ◇ Blue

 

道沿いに車を止める。

周りには誰もいなかった。

 

少し、迷ったけど、

その道を歩きたくて、ドアを開けた。

木々の間を痛いほどの光が

突き抜けアスファルトを焦がしている。

 

僕の横を

小学生の頃の僕が走りぬけて行った。

 

この道は、小学校までの通学路だった。

いつも笑っていた。

優しいばぁちゃんの笑顔が浮かぶ。

 

もう少しだけ、歩いてみよう・・。

             

「おい、おまえ・・。」

 

驚いたような声が背中から聞こえた。

 

反射的にキャップを深くかぶり直す。

 

でも、車に戻るには、

声の方を向かないといけなかった。

 

声は続ける。

       

「キム・テヒョンか・・。」

 

違います。そっくりさんです。

そう言って車に戻ろうと思った瞬間、

              

「俺を覚えているか・・。」

 

 

ゆっくり振り向いた先には

昔の面影が残る同級生が立っていた。

BTSのVになる前の僕を

知っている友人だった。

             

「・・うん。」

 

僕は笑った。

彼も頷きながら笑って

視線を足元に落とした。

             

「久しぶりだね。」

 

僕の声にしばらくの沈黙。

息を吐いた彼は、             

  

「あの時、本当に悪かった。」

 

と頭を下げた。

 

・・・。

 

彼とは同じクラスでよく遊んでいた。

 

でも、ある時の彼の誕生日会、

何故か僕は彼の家に入れなかった。

ずっと待っていたけど、

結局夕方プレゼントだけ置いて帰った。

 

泣きながら帰った。

 

彼とは、それから遊ぶ事も

話す事ですらなくなった。

 

もう、ずっと昔の事だ。

             

  

「子供心に嫉妬していたんだ。

お前はいつもクラスの真ん中にいて。

誕生日って1年で1回だけ自分が

主役になれる日なのに、お前が来たら、

その日まで奪われそうで。」

             

「・・そんな事なかったのに。

 子供の頃の事だよ。」

 

それでも、と彼は続けた。

             

「本当はさ、次の日、

ごめんって言いたかったんだ。

プレゼントありがとうって。

でも、その時も、お前のまわりには

別の友達がいて。俺も意地になってた。」

 

あれからお互いの進む道は

大きく違ったけど、

彼はテレビで僕を見る度に

思い出していたらしい。

             

「特に最近は、辛かったぞ。

どこをつけても、お前が映るんだ。」

 

僕は思わず笑いだしてしまった。

 

僕を見た彼も声を上げて笑った。

              

「謝れてよかったよ。

きっと神様が嘘や後悔を抱えたまま

会わないようにって

取り計らってくれたんだろうな。」

 

誰に?僕の問いに、

彼は恥ずかしそうに言った。

             

「俺、来月父親になるんだ。」

 

・・・。

 

僕はなぜか胸が熱くなった。

 

この道を一緒に歩いた友達が、

結婚して父親になる。

 

すごく、嬉しくて、すごく

             

「うらやましい・・。」

 

心の声が口からでていた。

彼が笑う。

       

「いいだろう。」

              

結局、僕がコーヒーをおごった。