【9:45】

 

 ◇ Blue

 

 短い息を感じて目をあけると

タンが顔の前まできていた。

 

頭から全身へ手を伸ばす。

     

「おはよう。」

 

まだ、はっきりしない頭で

リビングへ行くと、

家族の視線が一気に集まった。

             

「ん?」

 

しばらくの沈黙の後、

母さんが慌てて

             

「サンドイッチでいい?」

 

と聞いてきた。

 

うん、

と返事をして椅子に座る。

 

ソファでは、

妹と弟がお互いを蹴りあっていた。

 

目の前に置かれたサンドイッチを

口に運んだ時、

             

「兄貴、誰とつきあってるの?」

 

蹴りあった後、

ジャンケンをしている声がしていた。

 

負けたのか・・弟が聞いてきた。

 

僕の口から、

入れたばかりのサンドイッチが飛び出す。

              

「もう、」

 

母さんが拭き上げにくる。

 

そう言えば・・・昨日、

彼女との電話を聞かれたんだった。

 

・・・頭が働かない。

              

「ねぇ、誰~?」

 

妹が重ねてくる。

 

父さんは新聞を読み、

母さんは皿を片付けていたが、

どちらもフリをしている事は明白だった。

 

働かない頭の中で出た結論は

 

【とりあえず(まだ)言わない】

 

という事だった。

 

 

 

 

サンドイッチを口に詰め込み

黙秘権を行使したまま、浴室へ向かう。

 

昨日送られてきた、彼女のドレス姿。

気持ちを確かめ合って、

まだ1カ月なのに。

 

あの姿を

僕の隣で見る事ができたら

どんなに幸せだろう。

僕の隣で

彼女は、どんな顔をしてくれるだろう。

 

流れるお湯で、髪を濡らす。

 

そこで、気が付いた。

 

 

 

 

そう言えば・・

             

 

 

 

 

 

 

 

 

綺麗だって伝えていないっっ

 

 

 

 

 

 

 

 

自分のポンコツぶりが嫌になる。

今日、電話しようかな。

いや、でも、

消してくれって言っていた写真を

今更褒めるとかどうなの?

 

それに・・

 

 

 

彼女の話を思い出す。

 

今回、日本に帰るのは、

ケジメをつける為だと。

 

彼女のおじいさんが亡くなって

丁度6年になる今年が

約束の年だと言った。

 

ゆっくり話すその声が

今日の事を口にする時だけ

少し苦しそうだった気がした。

 

でも、明日は、僕との約束もあるし。

 

 

 

 

 

少し、気持ちが落ち着いた。

 

 

着替えた僕は、

家族の圧から逃げる為に、

ドライブに行く事にした。

 

 

 

 あの場所へ行ってみようかな。

 

 

 

 

 

スマホで曲を探す。

 

 

よし。

 

 

 

 

車は、気持ちよく発進した。