【15:10】

 

 ◇ Red

 

「ん~」

 

片手を顎に当て、

私を見る三上さんは、現在、

私の“旦那様”役を熱演中だった。

 

今日も、よく眠れそう・・

 

試着は3回目。

もう、指示出しされる前に

自分から1周回ってみる。

 

こういうのって、

どちらかと言えば

男性側が疲れるんじゃないの?

三上さんの目は真剣そのものだった。

 

再トライになってカーテンが閉まっていく。

 

ため息をつく私に、スタッフの女性が

クスクスと笑いながら、

             

「旦那様、

 本当に奥様が大好きなんですね」

 

と話す。

             

「はぁ・・。」

 

私の様子を見て、

     

「大丈夫です。次で決めます。

 私のとっておきです。」

 

慣れた手つきで

サイドジッパーを下げていく。

 

 

私は、今、

 

 

 

ウェディングドレスの試着中だった。

              

 

   ●●●●

 

買い物は、みき姉への出産祝い、

滞在中の洋服・化粧品・アクセサリー

これは、三上さんからの指摘があり、

追加された・・

それなりにスムーズに終わっていた。

 

ランチにしようと

店を探している時だった。

 

ある景色が私の足を止めた。

 

色とりどりの花の中で

ひときわ輝く純白のドレス。

 

昔、1度だけ夢見たドレス。

 

「彼」の笑顔が一瞬だけよぎった。

 

見ていたのは、

ほんの数秒だったと思ったが、

私の数歩前を歩いていたはずの

三上さんが、

店の扉を開けて入って行った。

急な彼の動きに反応できず

そのまま外で待っていると

店から出てきた彼は、

            

「ランチ、ランチ。」

 

と嬉しそうに歩き出していた。

 

ハンバーグが美味しいと話題の店に入って

 

「パスタにしなさい。」

 

と言ってきた。

 

・・・。

 

そして、すごく時間をかけて

コーヒーを飲み、時計を見て

私の手をとり店を出る。

少し歩いて、開けた扉の中に

私を力強く引きずり込んだ。

 

扉の横には、純白のドレスが

ディスプレイされていた。

 

女性スタッフが2名。

私達を見て深くお辞儀をする。

             

「お待ちしておりました。三上様。」

             

「飛び込みなのに、すみません。」

 

全く頭が追い付かない

私の両肩に手を置いた彼は、

男らしく伝えた。   

             

 「僕の妻の一花です。」

              

  

・・・ ん?

 

ん?

 

 

ん?

 

1人の女性が、前に出て、

私達“夫婦”を奥へ案内する。

ライトアップされた白い室内に、

様々なドレスが掛かっていた。

壁面の大型ビジョンには、

様々なシチュエーションで

幸せそうに笑い合う

男女の映像が流されている。

頭の中は混乱をとおりこして

機能を停止していた。

 

「どのようなドレスがお好みですか。」

 

女性の声に、ふっと我に返る。

無意識にドレスに伸びていた手を

慌てて引っ込めた。

 

横にいた“旦那様”が言う。

              

「実は彼女、背中から右腕にかけて

傷があるので、そこをカバーできる

ようなドレスがいいんだけど・・。」

             

「・・。そうですか、」

 

女性のスタッフは、しばらく考え

              

「わかりました。」

 

と言って、私を控室へ案内した。

 

そこからは着せ替え人形だった。

 

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