SCAI THE BATHHOUSEで開催中の宮島達男さんの「Uncertain」を観た。
偉大な芸術家が、さらに新しい境地に踏み出している様子に心が震えた。
宮島さんは、デジタルの数字を用いた表現で世界的に著名である。
今回、その文脈を継承しつつ、数字を構成する線要素をキャンバスに置き換え、そこにペインティングを施した。
特製のサイコロがあって、それを振って出た数字をキャンバスを移設して構成するという仕掛けもある。
ここには、宮島さんがずっと取り組まれてきた参加型のアートの精神がある。
デジタル数字の構成線素のかたちのキャンバスに油絵を塗った造型は美しい。
東京芸大の油絵科を出た宮島達男さんが、卒業後おそらく初めて描いたペインティングなのではないか。
中央にある巨大な「数字」には金箔? の装飾が施され、日本の伝統美術の気品とイデアが感じられて、特別な経験となっていた。
デジタルの刻々と変化する数字もまた、瞬間しゅんかんをとらえればそこには永遠がある。
移ろいゆくものと普遍なものとの関係についての叙述が最高のコンセプチュアルアートだとすれば、宮島達男さんの新境地は、デジタルとアナログ、生と死、真実とフェイクといった対立項を無効化して生命そのものの源に引き戻す力を持つと感じた。
白い布にデジタル数字を施した作品群は、しなやかさと冷たさと凛とした佇まいの融合した雰囲気で、展示空間に私たちを迎え入れる。
個人のコレクターが持つのも素敵なことだが、今回の展覧会の主要作品は、国公立の美術館にパーマネントコレクションとして置かれてこそ、多くの人にインスピレーションを与えるのではないかと感じた。
銭湯を改装して、日本を代表するギャラリー空間となっているSCAI THE BATHHOUSEの歴史を刻む、すばらしい展覧会である。
(クオリア評論)