匿名の反意語は、実名と言われることが多いが、果たしてそうであろうか。
「匿名」とは、正体不明と言うことであるが、そもそも「実名」とは、何であろうか。
○○病院院長とか、○○大学教授とか、○○省課長というような「肩書」が「実名」なのであろうか。
あるいは、戸籍上の本名が「実名」なのであろうか。
全くの偶然であるが、私と同姓同名のキャリア官僚が霞ヶ関にいる。
そのため、時々、混同されることがあって、彼宛のメールが間違って私に送られてきたこともある。
彼と区別するためには、私は常に肩書を書かないといけないのだろうか。
私の住所や生年月日を書いても、彼の住所や生年月日は公開されていないので区別できないし、そもそも、このような極めて個人的な情報をみだりに公開するつもりはない。
一方、国家公務員法その他により、公務員がその地位を私的に利用することは、厳に戒められている。
公権力の行使や職務として行う場合以外に、安易に肩書きを誇示すべきではないというのが公務員の基本的な倫理である。
公務員が私的な意見を述べるときや、個人名義で本を出したりするときには、わざわざ肩書きは書かないというのが本来であろう。
今年の2月、日本医師会の生命倫理懇談会(座長 髙久史麿)が医師のインターネットの利用について、報告書を公表している。
報告書を取りまとめた生命倫理懇談会は、本来は不妊治療や臓器移植、遺伝子治療と言った「生命倫理」について議論する場なのだが、なぜかインターネットの利用や医師の「職業倫理」についても苦言を呈している。
懇談会から日本医師会長宛に、このような注意喚起が行われるということは、医師による非道な行為がよほど目に余るということであろうか。
参考までに、いくつか紹介しておくと、報告書では「医師として相応しくない(アンプロフェッショナルな)情報発信」として、以下の6つを挙げている。
①「匿名発信」、「多重発信・なりすまし発信」
②「虚偽情報・未確認情報の流布」
③「個人攻撃」「個人に関する情報の収集と投稿」およびその呼びかけ
④「差別的発言・ステレオタイピング」
⑤「頻回・大容量発信」
⑥「一方的な主張に沿ったWikipedia記事の書き換え」
これらの6つは、医師(プロフェッショナル)としてと言うよりも、人としても相応しくない行為ではないかとさえ思うのだが、現実には、しばしば見られるものである。医師も人間なので、こういうことをする医師も少なくないのだろう。
もっとも、6番目の「一方的な主張に沿ったWikipedia記事の書き換え」というのは、かなりマニアックなような気もするが、高齢者中心の生命倫理懇談会でも、Wikipediaが話題になっているのであろう。玉石混淆で、出鱈目な記事も散見されるWikipediaであるが、その影響力は侮れない。
また、医師向け(会員制)掲示板・メールマガジン・SNS(ソーシャル・ネットワーク・サービス)の運営者に対して、以下のような要望も行っている。
① 発言は原則として実名とする
② 登録会員の身分確認の徹底
③ 発信者が特定できる形での通信ログの保全
④ 前述のような医師として相応しくない発信が行われていないかをモニターし、不適切な投稿を迅速に削除
⑤ 医師として相応しくない発信を繰り返す会員の排除
⑥ (ネットリンチに結びつく)賛同者数を表示する機能等を提供しない
こちらの方は、かなりプロフェッショナルとしての意地を示したものかと思う。
特に、「たとえ会員制であっても、数百人以上の医師が登録している掲示板やメールマガジンに投稿された記事については、そこで話題にされた人物本人からの求めがあれば、本人の知る権利を尊重して提供されるべきである。あるいは、登録している会員が本人に内容を知らせる行為を禁じる会員規約を設けることも不適切である。」という見解は、注目して良いと思う。
実際には、医局や詰所など医療関係者しかいない席では、患者や患者関係者(弁護士等)に対する誹謗中傷など、まま聞かれることである。ネットの普及で、こうした蔭口やヒソヒソ話がSNSやクローズなメーリングリストなので行われるようになっているのだが、こうした行為についても、厳に戒めるだけでなく、口外禁止・他言無用の規約を設けること自体を不適切と断じている。
座長の高久先生ぐらい高潔な方になればともかく、下々の身としては、なかなかここまで言い切れないのが情けないところである。
----------
「高度情報化社会における生命倫理」についての報告
【平成22年2月 日本医師会第Ⅺ次生命倫理懇談会(座長 髙久史麿)】
http://dl.med.or.jp/dl-med/teireikaiken/20100204_1.pdf
(4)医師として相応しくない(アンプロフェッショナルな)情報発信
以上を踏まえ、医師として相応しくないインターネットを通じた情報発信の類型のうち、主なものについて以下に例示する。
①「匿名発信」、「多重発信・なりすまし発信」
「匿名発信」は、情報を発信することによる不利益を恐れて発信できないことが、公益や人権に反する場合には正当化され得るものである。しかし、医師はプロフェッションの一員として、可能な限りインターネットを通じた発信も実名で行うことが望ましい。また、無制限に匿名発信が可能な掲示板やメーリングリストなどには登録しないことが望ましい。
さらに、複数の仮名(いわゆるハンドルネーム)を用いて発信する「多重発信」は、あたかも多くの人が同じ意見であるかのように見せかけることが可能であり、理由の如何を問わず行うべきではない。その他、自分とは異なる実在の人物を名乗ったり、実在の人物を想定させるような表現をとったり、あるいは個人として実在しなくとも、ある特定の組織や集団に属する人物を想定させる表現をとるような「なりすまし発信」も行ってはならない。
②「虚偽情報・未確認情報の流布」
「虚偽情報・未確認情報の流布」は、それだけで名誉毀損罪等の成立要件を満たす。また、匿名による掲示板やメーリングリスト等への投稿の内容は全て未確認と認識する必要があり、匿名により発信された情報を真実と仮定した自らの価値判断について再投稿することも行ってはならない。
③「個人攻撃」「個人に関する情報の収集と投稿」およびその呼びかけ
自らの主張を通さんがため、あるいは私的制裁を目的として、相手の個人としての人格を批判したり、侮辱・脅迫したり、経歴やプライバシーを公開したり、経歴やプライバシー情報を募ったり、Wikipedia に公人ではない個人を扱うページを立てたりなどの「個人攻撃」を行うこと、およびそれらを行うよう呼びかけを行うことは、厳に戒められなければならない。
特に、医療行為に関連した傷害、ないしその疑いがある傷害を受けた患者やその家族、彼らを支援する非医療者や医療者、医療機関や学会などの不正を内部告発した関係者、政策の立案・実施等に関わる行政関係者、医療に関連する記事を書いた報道機関の記者等に対するネット上の攻撃は、これに加勢する発信が増えれば増えるほど、医師のプロフェッションに対する社会からの信頼を大きく損なうことになる。
④「差別的発言・ステレオタイピング」
「差別的発言」は、医師に対する社会の信頼を失墜させるものであり、行ってはならない。人種、性、出身地、出身校などによる差別はもちろんであるが、特定の疾病や障害を有する患者やその家族に対する差別発言は特に、医師として絶対に行ってはならない。また、特定の職業や専門領域、組織などに所属する人々を画一的に非難する行為(ステレオタイピング)も行うべきではない。
⑤「頻回・大容量発信」
自分の主張を延々と繰り返す「頻回・大容量発信」は、もはや主張ではなく、「荒らし」である。多忙な医師に対するこのような発信は迷惑行為であり、正しい判断を阻害する。医師はこのような行為を行ってはならないし、また「頻回・大容量発信」を行う医師向けメールマガジン等には、登録しないことが最良の選択である。
⑥「一方的な主張に沿ったWikipedia 記事の書き換え」
Wikipedia は、誰もが編集に参加できるオンライン百科事典であり、良心に基づくその記述にはネット社会から一定の信用が寄せられている。議論のある問題(例えば医療過誤訴訟事案など)について扱っているWikipediaの記事も存在するが、「一方的な主張に沿ってWikipedia 記事を書き換える行為」は「荒らし」の一種であり、医師は行ってはならない。また、公人ではない個人についてのWikipedia記事を立てる行為も慎むべきである。
(5)医師向け(会員制)掲示板・メールマガジン・SNS(ソーシャル・ネットワーク・サービス)のあり方
医師を対象とした掲示板やメールマガジン、SNS 等を運営する業者には、次のような健全な運営を強く望むものである。
① 発言は原則として実名とする(特に匿名化が必要と認められる場合は、管理者が代理投稿すれば良い)
② 登録会員の身分確認の徹底
③ 発信者が特定できる形での通信ログの保全
④ 前述のような医師として相応しくない発信(管理者の許可を得ない匿名発信、多重発信、なりすまし発信、虚偽情報・未確認情報の流布、個人攻撃・私的制裁、差別的発言・ステレオタイピング、頻回・大容量発信など)が行われていないかをモニターし、不適切な投稿を迅速に削除
⑤ 医師として相応しくない発信を繰り返す会員の排除
⑥ (ネットリンチに結びつく)賛同者数を表示する機能等を提供しない
なお、たとえ会員制であっても、数百人以上の医師が登録している掲示板やメールマガジンに投稿された記事については、そこで話題にされた人物本人からの求めがあれば、本人の知る権利を尊重して提供されるべきである。あるいは、登録している会員が本人に内容を知らせる行為を禁じる会員規約を設けることも不適切である。さらに、数千人以上の医師が登録している掲示板やメールマガジンの内容は、公共の利益を目的として他のメディア等に採り上げられて批判される可能性があることも想定すべきである。
報告書を取りまとめた生命倫理懇談会は、本来は不妊治療や臓器移植、遺伝子治療と言った「生命倫理」について議論する場なのだが、なぜかインターネットの利用や医師の「職業倫理」についても苦言を呈している。
懇談会から日本医師会長宛に、このような注意喚起が行われるということは、医師による非道な行為がよほど目に余るということであろうか。
参考までに、いくつか紹介しておくと、報告書では「医師として相応しくない(アンプロフェッショナルな)情報発信」として、以下の6つを挙げている。
①「匿名発信」、「多重発信・なりすまし発信」
②「虚偽情報・未確認情報の流布」
③「個人攻撃」「個人に関する情報の収集と投稿」およびその呼びかけ
④「差別的発言・ステレオタイピング」
⑤「頻回・大容量発信」
⑥「一方的な主張に沿ったWikipedia記事の書き換え」
これらの6つは、医師(プロフェッショナル)としてと言うよりも、人としても相応しくない行為ではないかとさえ思うのだが、現実には、しばしば見られるものである。医師も人間なので、こういうことをする医師も少なくないのだろう。
もっとも、6番目の「一方的な主張に沿ったWikipedia記事の書き換え」というのは、かなりマニアックなような気もするが、高齢者中心の生命倫理懇談会でも、Wikipediaが話題になっているのであろう。玉石混淆で、出鱈目な記事も散見されるWikipediaであるが、その影響力は侮れない。
また、医師向け(会員制)掲示板・メールマガジン・SNS(ソーシャル・ネットワーク・サービス)の運営者に対して、以下のような要望も行っている。
① 発言は原則として実名とする
② 登録会員の身分確認の徹底
③ 発信者が特定できる形での通信ログの保全
④ 前述のような医師として相応しくない発信が行われていないかをモニターし、不適切な投稿を迅速に削除
⑤ 医師として相応しくない発信を繰り返す会員の排除
⑥ (ネットリンチに結びつく)賛同者数を表示する機能等を提供しない
こちらの方は、かなりプロフェッショナルとしての意地を示したものかと思う。
特に、「たとえ会員制であっても、数百人以上の医師が登録している掲示板やメールマガジンに投稿された記事については、そこで話題にされた人物本人からの求めがあれば、本人の知る権利を尊重して提供されるべきである。あるいは、登録している会員が本人に内容を知らせる行為を禁じる会員規約を設けることも不適切である。」という見解は、注目して良いと思う。
実際には、医局や詰所など医療関係者しかいない席では、患者や患者関係者(弁護士等)に対する誹謗中傷など、まま聞かれることである。ネットの普及で、こうした蔭口やヒソヒソ話がSNSやクローズなメーリングリストなので行われるようになっているのだが、こうした行為についても、厳に戒めるだけでなく、口外禁止・他言無用の規約を設けること自体を不適切と断じている。
座長の高久先生ぐらい高潔な方になればともかく、下々の身としては、なかなかここまで言い切れないのが情けないところである。
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「高度情報化社会における生命倫理」についての報告
【平成22年2月 日本医師会第Ⅺ次生命倫理懇談会(座長 髙久史麿)】
http://dl.med.or.jp/dl-med/teireikaiken/20100204_1.pdf
(4)医師として相応しくない(アンプロフェッショナルな)情報発信
以上を踏まえ、医師として相応しくないインターネットを通じた情報発信の類型のうち、主なものについて以下に例示する。
①「匿名発信」、「多重発信・なりすまし発信」
「匿名発信」は、情報を発信することによる不利益を恐れて発信できないことが、公益や人権に反する場合には正当化され得るものである。しかし、医師はプロフェッションの一員として、可能な限りインターネットを通じた発信も実名で行うことが望ましい。また、無制限に匿名発信が可能な掲示板やメーリングリストなどには登録しないことが望ましい。
さらに、複数の仮名(いわゆるハンドルネーム)を用いて発信する「多重発信」は、あたかも多くの人が同じ意見であるかのように見せかけることが可能であり、理由の如何を問わず行うべきではない。その他、自分とは異なる実在の人物を名乗ったり、実在の人物を想定させるような表現をとったり、あるいは個人として実在しなくとも、ある特定の組織や集団に属する人物を想定させる表現をとるような「なりすまし発信」も行ってはならない。
②「虚偽情報・未確認情報の流布」
「虚偽情報・未確認情報の流布」は、それだけで名誉毀損罪等の成立要件を満たす。また、匿名による掲示板やメーリングリスト等への投稿の内容は全て未確認と認識する必要があり、匿名により発信された情報を真実と仮定した自らの価値判断について再投稿することも行ってはならない。
③「個人攻撃」「個人に関する情報の収集と投稿」およびその呼びかけ
自らの主張を通さんがため、あるいは私的制裁を目的として、相手の個人としての人格を批判したり、侮辱・脅迫したり、経歴やプライバシーを公開したり、経歴やプライバシー情報を募ったり、Wikipedia に公人ではない個人を扱うページを立てたりなどの「個人攻撃」を行うこと、およびそれらを行うよう呼びかけを行うことは、厳に戒められなければならない。
特に、医療行為に関連した傷害、ないしその疑いがある傷害を受けた患者やその家族、彼らを支援する非医療者や医療者、医療機関や学会などの不正を内部告発した関係者、政策の立案・実施等に関わる行政関係者、医療に関連する記事を書いた報道機関の記者等に対するネット上の攻撃は、これに加勢する発信が増えれば増えるほど、医師のプロフェッションに対する社会からの信頼を大きく損なうことになる。
④「差別的発言・ステレオタイピング」
「差別的発言」は、医師に対する社会の信頼を失墜させるものであり、行ってはならない。人種、性、出身地、出身校などによる差別はもちろんであるが、特定の疾病や障害を有する患者やその家族に対する差別発言は特に、医師として絶対に行ってはならない。また、特定の職業や専門領域、組織などに所属する人々を画一的に非難する行為(ステレオタイピング)も行うべきではない。
⑤「頻回・大容量発信」
自分の主張を延々と繰り返す「頻回・大容量発信」は、もはや主張ではなく、「荒らし」である。多忙な医師に対するこのような発信は迷惑行為であり、正しい判断を阻害する。医師はこのような行為を行ってはならないし、また「頻回・大容量発信」を行う医師向けメールマガジン等には、登録しないことが最良の選択である。
⑥「一方的な主張に沿ったWikipedia 記事の書き換え」
Wikipedia は、誰もが編集に参加できるオンライン百科事典であり、良心に基づくその記述にはネット社会から一定の信用が寄せられている。議論のある問題(例えば医療過誤訴訟事案など)について扱っているWikipediaの記事も存在するが、「一方的な主張に沿ってWikipedia 記事を書き換える行為」は「荒らし」の一種であり、医師は行ってはならない。また、公人ではない個人についてのWikipedia記事を立てる行為も慎むべきである。
(5)医師向け(会員制)掲示板・メールマガジン・SNS(ソーシャル・ネットワーク・サービス)のあり方
医師を対象とした掲示板やメールマガジン、SNS 等を運営する業者には、次のような健全な運営を強く望むものである。
① 発言は原則として実名とする(特に匿名化が必要と認められる場合は、管理者が代理投稿すれば良い)
② 登録会員の身分確認の徹底
③ 発信者が特定できる形での通信ログの保全
④ 前述のような医師として相応しくない発信(管理者の許可を得ない匿名発信、多重発信、なりすまし発信、虚偽情報・未確認情報の流布、個人攻撃・私的制裁、差別的発言・ステレオタイピング、頻回・大容量発信など)が行われていないかをモニターし、不適切な投稿を迅速に削除
⑤ 医師として相応しくない発信を繰り返す会員の排除
⑥ (ネットリンチに結びつく)賛同者数を表示する機能等を提供しない
なお、たとえ会員制であっても、数百人以上の医師が登録している掲示板やメールマガジンに投稿された記事については、そこで話題にされた人物本人からの求めがあれば、本人の知る権利を尊重して提供されるべきである。あるいは、登録している会員が本人に内容を知らせる行為を禁じる会員規約を設けることも不適切である。さらに、数千人以上の医師が登録している掲示板やメールマガジンの内容は、公共の利益を目的として他のメディア等に採り上げられて批判される可能性があることも想定すべきである。
シェイクスピアの劇作「ロミオとジュリエット」の中に、検疫と隔離・停留に関する記述が少しだけ出てくる。
パリスとの結婚を目前にして、ジュリエットが毒を飲んで仮死状態になっていること、つまり、ジュリエットは本当は死んではいないという大事なことをロミオに伝える役目の修道士ジョンが何故、伝令の務めを果たせなかったのか、その理由を述べる件である。
修道士ジョンは、ジュリエットに毒を渡した修道士ロレンスからの手紙を持って、ロミオのいるマントゥヴァへ行かなければならなかったのだが、修道士ジョンらの属するフランシスコ会の戒律によると、修道士が一人で町の外へ出てはいけないということで、同行の修道士を探し求めて、病人の家へ行ったという。
そこで、折良くマントゥヴァへ同行してくれる修道士を見付けたのだが、ヴェローナ市の検疫官(the searchers)から、その病人はペストではないかと疑われ、そのまま患者もろとも、隔離されてしまって、マントゥヴァへ行けなかったというのが修道士ジョンが伝令の役目を果たせなかった理由である。
ロンドンでペストが流行して、劇場が閉鎖されたりした事件があったのは、1592年頃のことなので、ちょうど「ロミオとジュリエット」が書かれて、上演されていた頃の話である。
当時のロンドン市民も、今の日本人がSARSや新型インフルエンザで大騒ぎしたのと同様、あるいは、それ以上にペストで大騒ぎをしていたらしい。
修道士ジョンは、今で言う濃厚接触者として、隔離・停留されてしまい、その間、誰か代わりの者に手紙を届けさすこともできなかったということである。
この話は、16世紀末のイギリス、ロンドンで書かれた劇作の中での話であるが、現代でも、同じようなことは起こり得る。
昨年、新型インフルエンザ騒動の際には、隔離・停留されたのが高校生だったので、あまり問題にはならなかったが、法律に基づいて隔離されている間は、原則として収入はない。
サラリーマンの場合、有給休暇があれば、それを消化すると言うことも可能であるが、”No Work, No Pay”が原則であり、働かなければ、食べていけないのが現実である。
また、中小企業の経営者などの場合、10日間も隔離されて仕事ができなくなると、様々な経済的な損失を被ることが予想される。例えば、手形の決済が間に合わなかったり、風評被害で売り上げが減ったりすると、小さな会社は倒産してしまうかも知れない。
今の検疫法には、こうした保障については全く書かれていない。感染症予防法も同様である。
16世紀以来の隔離や停留は、もはや時代遅れではないかと思うが、もしも、未だに続けるのであれば、隔離・停留対象者に対する生活保障・所得補償についても配慮すべきではなかろうか。
該当部分の松岡和子さんの訳と、原文の英文テキストは、以下のとおり。
英語で、”the searchers”と書かれている部分が「検疫官」と訳されている。
----------
「ロミオとジュリエット」W.シェイクスピア 松岡和子訳
修道士ジョン
実は、同門の修道士を探し
道連れになってもらおうといたしまして。
ちょうど町の病人を見舞っているところを訪ね当てたのですが、町の検疫官に
我々二人が伝染病患者の出た家にいたとの疑いをかけられ
戸には封印をされ、一歩も外に出られなくなりました。
そんな訳で足止めを食ってマントゥヴァへは行かずじまい。
修道士ロレンス
では、私の手紙は誰がロミオに?
修道士ジョン
届けることができずに - まだここに -
そのうえ、こちらにお返ししようにも
みな感染を怖がって使いの者も見つかりませんで。
----------
【シェイクスピア作品の英文テキスト】
http://www.shakespeare-literature.com/
Act 5, Scene 2
SCENE II. Friar Laurence's cell.
(Enter FRIAR JOHN)
FRIAR JOHN
Holy Franciscan friar! brother, ho!
(Enter FRIAR LAURENCE)
FRIAR LAURENCE
This same should be the voice of Friar John.
Welcome from Mantua: what says Romeo?
Or, if his mind be writ, give me his letter.
FRIAR JOHN
Going to find a bare-foot brother out
One of our order, to associate me,
Here in this city visiting the sick,
And finding him, the searchers of the town,
Suspecting that we both were in a house
Where the infectious pestilence did reign,
Seal'd up the doors, and would not let us forth;
So that my speed to Mantua there was stay'd.
FRIAR LAURENCE
Who bare my letter, then, to Romeo?
FRIAR JOHN
I could not send it,--here it is again,--
Nor get a messenger to bring it thee,
So fearful were they of infection.
FRIAR LAURENCE
Unhappy fortune! by my brotherhood,
The letter was not nice but full of charge
Of dear import, and the neglecting it
May do much danger. Friar John, go hence;
Get me an iron crow, and bring it straight
Unto my cell.
FRIAR JOHN
Brother, I'll go and bring it thee.
(Exit)
FRIAR LAURENCE
Now must I to the monument alone;
Within three hours will fair Juliet wake:
She will beshrew me much that Romeo
Hath had no notice of these accidents;
But I will write again to Mantua,
And keep her at my cell till Romeo come;
Poor living corse, closed in a dead man's tomb!
(Exit)
パリスとの結婚を目前にして、ジュリエットが毒を飲んで仮死状態になっていること、つまり、ジュリエットは本当は死んではいないという大事なことをロミオに伝える役目の修道士ジョンが何故、伝令の務めを果たせなかったのか、その理由を述べる件である。
修道士ジョンは、ジュリエットに毒を渡した修道士ロレンスからの手紙を持って、ロミオのいるマントゥヴァへ行かなければならなかったのだが、修道士ジョンらの属するフランシスコ会の戒律によると、修道士が一人で町の外へ出てはいけないということで、同行の修道士を探し求めて、病人の家へ行ったという。
そこで、折良くマントゥヴァへ同行してくれる修道士を見付けたのだが、ヴェローナ市の検疫官(the searchers)から、その病人はペストではないかと疑われ、そのまま患者もろとも、隔離されてしまって、マントゥヴァへ行けなかったというのが修道士ジョンが伝令の役目を果たせなかった理由である。
ロンドンでペストが流行して、劇場が閉鎖されたりした事件があったのは、1592年頃のことなので、ちょうど「ロミオとジュリエット」が書かれて、上演されていた頃の話である。
当時のロンドン市民も、今の日本人がSARSや新型インフルエンザで大騒ぎしたのと同様、あるいは、それ以上にペストで大騒ぎをしていたらしい。
修道士ジョンは、今で言う濃厚接触者として、隔離・停留されてしまい、その間、誰か代わりの者に手紙を届けさすこともできなかったということである。
この話は、16世紀末のイギリス、ロンドンで書かれた劇作の中での話であるが、現代でも、同じようなことは起こり得る。
昨年、新型インフルエンザ騒動の際には、隔離・停留されたのが高校生だったので、あまり問題にはならなかったが、法律に基づいて隔離されている間は、原則として収入はない。
サラリーマンの場合、有給休暇があれば、それを消化すると言うことも可能であるが、”No Work, No Pay”が原則であり、働かなければ、食べていけないのが現実である。
また、中小企業の経営者などの場合、10日間も隔離されて仕事ができなくなると、様々な経済的な損失を被ることが予想される。例えば、手形の決済が間に合わなかったり、風評被害で売り上げが減ったりすると、小さな会社は倒産してしまうかも知れない。
今の検疫法には、こうした保障については全く書かれていない。感染症予防法も同様である。
16世紀以来の隔離や停留は、もはや時代遅れではないかと思うが、もしも、未だに続けるのであれば、隔離・停留対象者に対する生活保障・所得補償についても配慮すべきではなかろうか。
該当部分の松岡和子さんの訳と、原文の英文テキストは、以下のとおり。
英語で、”the searchers”と書かれている部分が「検疫官」と訳されている。
----------
「ロミオとジュリエット」W.シェイクスピア 松岡和子訳
修道士ジョン
実は、同門の修道士を探し
道連れになってもらおうといたしまして。
ちょうど町の病人を見舞っているところを訪ね当てたのですが、町の検疫官に
我々二人が伝染病患者の出た家にいたとの疑いをかけられ
戸には封印をされ、一歩も外に出られなくなりました。
そんな訳で足止めを食ってマントゥヴァへは行かずじまい。
修道士ロレンス
では、私の手紙は誰がロミオに?
修道士ジョン
届けることができずに - まだここに -
そのうえ、こちらにお返ししようにも
みな感染を怖がって使いの者も見つかりませんで。
----------
【シェイクスピア作品の英文テキスト】
http://www.shakespeare-literature.com/
Act 5, Scene 2
SCENE II. Friar Laurence's cell.
(Enter FRIAR JOHN)
FRIAR JOHN
Holy Franciscan friar! brother, ho!
(Enter FRIAR LAURENCE)
FRIAR LAURENCE
This same should be the voice of Friar John.
Welcome from Mantua: what says Romeo?
Or, if his mind be writ, give me his letter.
FRIAR JOHN
Going to find a bare-foot brother out
One of our order, to associate me,
Here in this city visiting the sick,
And finding him, the searchers of the town,
Suspecting that we both were in a house
Where the infectious pestilence did reign,
Seal'd up the doors, and would not let us forth;
So that my speed to Mantua there was stay'd.
FRIAR LAURENCE
Who bare my letter, then, to Romeo?
FRIAR JOHN
I could not send it,--here it is again,--
Nor get a messenger to bring it thee,
So fearful were they of infection.
FRIAR LAURENCE
Unhappy fortune! by my brotherhood,
The letter was not nice but full of charge
Of dear import, and the neglecting it
May do much danger. Friar John, go hence;
Get me an iron crow, and bring it straight
Unto my cell.
FRIAR JOHN
Brother, I'll go and bring it thee.
(Exit)
FRIAR LAURENCE
Now must I to the monument alone;
Within three hours will fair Juliet wake:
She will beshrew me much that Romeo
Hath had no notice of these accidents;
But I will write again to Mantua,
And keep her at my cell till Romeo come;
Poor living corse, closed in a dead man's tomb!
(Exit)