と、その時俺の携帯が鳴った。
ポケットから取り出して、見ると、桜からだった。
俺は再びポケットにしまった。
「出なくていいの?」
「あ?…ああ」
「彼女じゃないの?」
「……」
だってなんかややこしそうじゃん?今、出たら。
向こうは俺ひとりだと思ってかけてきてるんだろうけど…実際目の前には桃がいて…今夜泊まることになっちゃったし…。
桃は千帆みたいな顔して、ジッと俺を見つめてる。ってか、睨みつけてる。
「お前、顔怖いよ」
「ママが乗り移った」
「は⁇」
「条くん、ひどい!」
「はあ⁇」
ポケットの中で携帯が鳴り続けている。
「彼女なんでしょ?出てあげなよ!」
「ああ!そっち?」
じゃ、出るか。
って携帯を取り出して通話ボタンを押した。
「もしもし」
携帯を耳にあてて、部屋を出ようと席を立った瞬間、桃が、
「浮気者‼︎」
って叫んだ。
***
「う…わ、き、もの…?」
女の人の声で、そう聞こえた。条くんの「もしもし」にキュンとした、そのすぐ後で。
「ばっ…か!…おま…何言って…」
慌てた条くんの声。お前って誰のこと?
「条くん?」
「ハイッ!」
ハイッ!ですって?
条くんが?私に?
「ごめんね?誰かと一緒?かけなおす?」
「ああ…ああ、うん…あ、いや…」
『条くん、早すぎるよーっ!』
「うるせーっ!黙ってろ!」
は、早すぎるって…何の話?
『もっとちゃんとママのこと思ってやってよ〜』
桃ちゃんだ!
早すぎるって…
もっとちゃんとママのこと思ってヤってって…
いやいやいや!何考えてるんだ私!
あり得ないでしょ!私のバカ!エッチ!
「ごめん。桜。…やっぱ、あとでかけ直す」
「う…うん」
条くん、今、家?
あの…桃ちゃんと一緒なの?
こんな時間に…
泊めてあげるの?
言いたくて、言えなくて…でも、電話を切れなくて…。
黙っていると、
「ごめんな?じゃ、また後で」
って電話が切れた。
はぁ…。
あり得ない。
絶対あり得ないけど…
じゃあ…早すぎるって何のこと⁇
何が早すぎる?他に何が…?
ダメだ…。
もう!
私は自分の頭をポカポカ叩いた。
そんなわけないのに、それしか思いつかない自分がイヤ!