私がお風呂から上がってくると、条くんはベッドにもたれ、膝を抱えてカーペットに座っていた。
チェックのブランケットを肩まで引っ張り上げて、ベッドとローテーブルの間で小さくなって、居眠りをしている。
私は近づいて、条くんの隣に座ると、
「条くん…お疲れ様」
ってチュッと頬っぺたにキスをした。
「…ん?」
条くんが顔をしかめて、薄目を開ける。
「お風呂空いたよ?」
「…ああ…」
条くんは寝ぼけ眼で立ち上がると、私にブランケットをパサっと被せて浴室に向かった。
今日はお互いに仕事納めの日で、私は明日から沖縄に帰る予定だった。
本当は、条くんと一緒に帰りたかったんだけど…。
***
先月、条くんに年末年始どうするか聞いたら、
「ああ…ごめん。桃が帰って来るんだ」
って言われた。
大学一年生の桃ちゃんは、条くんが愛した千帆さんの忘れ形見。条くんにとっては娘みたいなもので…。
桃ちゃんにとっても、DVで母親や自分を苦しめた実父より、条くんの方がお父さんらしくて…きっと頼りにしていると思う。桃ちゃんには、頼れる大人は条くんしかいなくなっちゃったわけだし…。
と思ったら、もちろん何も言えなかった。
「桜はいつまで沖縄にいるの?」
「…条くんしだい」
「え?」
「あ…えっと、多分三ヶ日は引き止められると思う」
「ふふ。お前、愛されてるもんな」
優しく笑う条くん。
条くんは…どうなの?
条くんが早く帰って来いって言うなら、早く帰って来るけど…。
「も…桃ちゃんは、どれくらいいるのかな…」
「さあ。ゆっくりしたいって言ってたけど…友達んとこもそうそう長居できないんじゃないかなぁ」
「友達のところに泊まるの?」
「って言ってた」
「そう」
ちょっとホッとする。
別に条くんのマンションに泊まったって、親子みたいなもんだし、何かあるわけじゃないけど…
でも…
「…何?」
条くんが私の顔を覗き込む。
「え?」
「寂しい?」
「えっ⁇///」
しばらく会えなくなるからってこと?いや、そっちじゃなくて…
寂しいより…なんかモヤモヤする…。
当たり前のように桃が帰って来るって言う条くん。きっと千帆さんのこと思い出すだろうし…。
「帰って来たら連絡して?ずっと桃の相手するつもりないし」
条くんはそう言うと、私を見つめた。それから顔を斜めにしてチュッと唇にキスすると、
「デートしよう」
って甘く微笑んだ。