岡田は携帯を耳に当てて繁華街をうろついていた。ダメ元で岬に電話をかけているのだ。まだ向こうも岡田の連絡先を消していなければ、岡田からだとわかるだろう。
わかったら、出ないか。
いや、というよりむしろ、既に携帯はどこかに放置して三宅と逃げているかもしれない。現に今、携帯を手掛かりに岬の居場所に近づいているところだ。
「出てくれ…頼むから…」
もはや三宅の行方より何より岡田は岬のことが心配でならなかった。
岬は恋人だからと安心しているかもしれないが、相手は3人も人を殺した殺人鬼だ。衝動的に何をするかわからない。
追い詰められた三宅が岬と無理心中を図ったりしたら…?
せめて声を聞いて生きていることを確認したい。
「出てくれ…っ…岬!」
すると、岡田の思いが通じたのか、岬が電話に出た。
「はい。岬です」
岡田はふぅと安堵の息をついた。
「どこにいる?」
ラブホテルの看板に目を走らせる。
「言えません」
岡田は立ち止まって目を閉じた。眉間に手を当てる。
「岬…わかってるのか?自分がやってること」
「わかってます」
「わかってない!鑑識の結果が出た。三宅は黒だ!殺人犯なんだぞ⁈」
「……」
「一緒にいるんだろ?」
「……」
「わかった。居場所は言わなくていい。ただ、三宅から離れてくれ」
「できません」
「離れろ!危険だ。何をするかわからない」
「大丈夫です」
「岬、いったい三宅をどうするつもりだ?もう逃げられないぞ」
「岡田さん…時間をください。健ちゃんが犯人なら…自首させたいんです」
「岬…」
岡田は静かに首を振った。
「残念だけど、逮捕令状が出てから出頭しても自首したことにはならない。容疑者と確定される前じゃないと」
「逮捕令状出たんですか?」
「今手続きに入ってる」
「じゃあ、ストップさせてください」
「無茶言うな!」
「岡田さん!健ちゃんが犯人だとしたら…駿ちゃんは健ちゃんに助けられたんじゃないんですか⁈健ちゃんがあの変質者を殺さなかったら、駿ちゃんはどうなってたんですか?」
「……」
「子供を助けるためでも、人を殺しちゃいけない。もちろん、それはそうですけど…。だから、健ちゃんが犯人なら、悪いことは悪いことだってちゃんと…認めて…自首させます。だから、もう少しだけ時間を下さい。お願い…っ!」
「わかった。ホテルはグランシャトーだな?外で待ってる。携帯は繋がるようにしてて」
「ありがとう」
「気をつけて」
「大丈夫です」
「大丈夫じゃないから言ってる」
「……わかりました。気をつけます」