男と女 1 条と桜 | 上目遣いのけんちゃん先生 V6カミセン 小説

上目遣いのけんちゃん先生 V6カミセン 小説

V6の三宅健と森田剛と岡田准一をイメージしたイケメン教師が、今どきの女子高校生たちと繰り広げる学園ドラマ。ドラマの進行の合間に出てくるけんちゃん先生の古典講義は勉強にもなる?

※夏の終わりのデートでおま条の日焼けは、ほどよい設定でお願いしますニコニコ






この夏は、ダンス部漬けだった。

主顧問の先生が体調を崩したこともあり、学校での練習はもちろん、合宿や地方遠征にも全部私が付き添った。瀬名さんにも、すごく助けられた。


無事、去年に引き続き全国優勝できて、ホッと一息、と思ったらもう二学期が始まる。


夏休み最後の日、条くんに誘われて、食事に行った。


時々条くんと来る川沿いのイタリアンのお店。先に着いて、「条です」って言うと、オープンテラスの予約席に案内された。


日が落ちた後は、川風が気持ちいい。


しばらくすると、条くんが来た。


ノータイの白シャツを第2ボタンまで開けて、腕まくりをしている。黒の細身のスラックス。磨かれた革靴。ジャケットを腕にかけて、足早にこっちに来る。


髪が川風に揺れる。


コンパクトなシルエットがかっこよくて、思わず見惚れた。


台風の日以来、久しぶりのデート。


「ごめん。待った?」


「ううん。今来たとこ」


条くんが腕時計を見る。時間きっかり。


「急に出張入ってさ」


「そうなんだ」


それでもちゃんと間に合ってる。さすが条くんだな。


条くんは綺麗に折りたたんだハンカチを取り出して、顔の汗を拭った。水を持って来てくれたスタッフにありがとうと言って微笑んだ。


「久しぶりだな」


「うん」


私たちはスパークリングワインで乾杯をして、お互いの夏を報告し合った。


久しぶりに条くんに会って、ちょっとハイになった。


お酒もいつもよりたくさん飲んだ。条くんとふたりなら、多少飲み過ぎたって安心だから。


メインディッシュを食べ終えた頃には、いい感じに酔いが回ってきた。



「夏休みなのに、条くんといた時間より、瀬名さんといた時間の方が長いとかって…変な感じだよね?」


酔っていたから、あまり何も考えずに、素直に思ったことが口から出た。



「そうだな」


条くんが素っ気なく言って、グラスに口をつけた。


「合宿にも行ったの?あいつ」


「うん。全部付いて来てくれたよ。合宿も地方遠征も」


「主顧問の先生はいなかったんだろ?」


「うん。だから助かった」


「ふたりだったんだ」


「え?」


「大人は、桜とあいつだけだったってこと」


「そうだよ?」


「…ふぅん…」



「親切な人だよね。自分の仕事だってあるのに。まあ、生徒があれだけ頑張ってたら、ほっとけなくなる気持ちはわかるけどね」



うん。瀬名さん、いい人だ。



条くんが、ジッと私を見た。


「なに?」


「…べつに」


フイと目を逸らして、条くんのお皿に残った付け合わせのアスパラを指した。


「いる?」



「ああ!…うん…いい?」



私はパクっとアスパラを口に入れて、思い出し笑いをした。


「ふふっ」


「なに?」


条くんがつられて微笑みながら、通りかかったスタッフに空いたお皿をさげてデザートを持って来てくれと頼んだ。


それから、私の方に向きなおり、


「何思い出したの?」


って微笑んだ。



私はアスパラを咀嚼してから言った。


「うん。瀬名さんもね、野菜が苦手。条くんと一緒。遠征先のホテルでね、バイキングだったんだけど、肉、肉、肉…ってすごいの。バーッて並んで、野菜食べなきゃダメですよって言ったら、なんか色々子供みたいな言い訳して…」


それがちょっと条くんっぽかった。条くんも、大人の色気ダダ漏れかと思いきや、子供みたいに可愛くなるときがある。


一緒にいた時間は瀬名さんの方が長かったけど、私は瀬名さんを見て、条くんのことばかり思い出してたんだ。


「へーぇ…。あいつの嗜好なんてぜんっぜん興味無いけど」


「あ…えっと…」


しまった。


「…そうだよね…」



瀬名さんの話ばかり…してるかな?私。


「関係…ないもんね。条くんには」


「関係なくは、ないけど」


「え?」


どういう意味?


「あいかわらずガード緩いな」


「は、はい?」


「お前、狙われてるよ。瀬名に」


「え⁇」


「『え⁇』じゃねーよ。こっちが『え⁇』だよ」


「それは、ないと思うよ?」


「なんで?」


「だって瀬名さんは私が条くんと付き合ってること知ってるし…そりゃ…あの…昔は…私に気があったかもしれないけど、あの…『諦める』って面と向かって宣言されたし」


「信じたの?それ」


「え⁇だって…。じゃ、瀬名さんが嘘ついたってこと?」


「嘘はついてないかもしれないけどさ」


「でしょ?」


「でも『諦める』って宣言したら、諦められるってもんでもないだろ?」


…たしかに。


条くんの言うことは、いつも的を射ている。


条くんの後ろに黒い川が流れている。


川風に揺れる条くんの髪。いい色に日焼けした肌と白いシャツのコントラスト。なんだかほんとにイタリアにでもいるみたいに、条くんの周りだけ、絵になってる。