ラストノート❻ 条と宝 | 上目遣いのけんちゃん先生 V6カミセン 小説

上目遣いのけんちゃん先生 V6カミセン 小説

V6の三宅健と森田剛と岡田准一をイメージしたイケメン教師が、今どきの女子高校生たちと繰り広げる学園ドラマ。ドラマの進行の合間に出てくるけんちゃん先生の古典講義は勉強にもなる?


「はぁ?」



「ああ…妬けるなぁ」


って宝がお湯を注ぎながらわざとらしいトーンで呟く。


「なに言ってんだよ」


「条くん、俺の匂いは嗅いでくれないのかなぁ…」


「嗅がねーよっ」


「健くんの残り香は嗅ぐのになぁ…」


……。


バレてる。こいつ…背中にも目ついてんのか⁇



「嗅いでないって!い、今のは…確認だよ。確認!」



「だから健くんの匂いを確認してたんでしょ」



「違う違う!俺の鼻がちゃんと!正常に!機能してるかどうかの確認!」



「あははっ。じゃ俺も確認しよ」


宝がすっと俺に近寄って首筋に鼻をつけた。


「うひゃっ!」


変な声出た。咄嗟に首を抑えて後ずさる。


「くすぐってーだろっ!何やってんだよこらぁっ!」


宝があははって笑って、ポットの所に戻り、カップにコーヒーを淹れて運んでくれた。



「はい。どうぞ」



「サンキュ」


ふたりでソファに向かい合って座り、コーヒーを飲んだ。



「ん。…うまい」


って言うと、宝が嬉しそうに微笑んだ。


部屋の隅には健の黒い紋付袴がかけてあって、窓辺には多肉植物と盆栽が並んでいる。その窓の向こうは花曇り。

目の前のソファでは宝が足を組んでコーヒーを飲みながら、譜面を見ている。


譜面を見たら、頭の中で音が流れるのだろう。肘掛けに乗せた手が小さく動いて指揮をとり始める。


ゆったりと流れる時間。


俺はゴロンとソファに寝転んで数学雑誌を手に取った。

さて…と。うるさいあいつのいない間にひと遊びするか。



「健がいないと、静かでいいなぁ…」


面白そうな問題を見ながら独り言を言った。


宝がチラッと俺を見て、それからまた譜面に視線を戻した。手を動かしながら鼻歌を歌う。


俺は、問題を眺めながら、シンプルな宇宙に思考を飛ばす。点と線と、記号と数字。


ひょっとしたら宝の眺めてる譜面も、似たようなものかもしれない。


「宝ぁ…」


「ん?」


「数学と音楽ってさぁ…似てる?」


宝が譜面から顔を上げた。


少し考えて、ニコッと笑った。


「ああ…そうだね。似てるかもしれない」


俺と宝みたいに。