「おやめください…っ!」
源氏は聞く耳を持たなかった。
勢いに任せなければ、成し遂げられない。女が哀れになって手を止めたら、そこで終わりだ。
源氏は飢えていた。渇いていた。
この女のプライドを壊し、体を貫く以外、鎮まることのない、欲望の火が燃えさかっていた。
女が抵抗するので、腰紐を解いてもなお衣を全て剥ぎ取ることができずに苛立った。
決して袖を抜こうとしない女は衣を身にまとわりつかせたまま源氏の下から這い出した。
源氏は素早く女の背面にのしかかった。
「聞き分けのない人だ…っ」
這いつくばっている女の衣を掴み、か細い腕を無理やり両袖から引き抜いた。
一糸纏わぬ女体が源氏の下で汗を光らせ、波打った。
源氏は女を抱き上げて座り、後ろから羽交い締めにした。
艶かしい女の汗の匂いが源氏の鼻をつき、欲望を掻き立てた。
女はぴったりと脚を閉じ、両手で自分の体を抱きしめて泣いている。
さすがに、かわいそうになった。
抱きしめた腕に押しつぶされた乳房の上部に汗粒が浮いている。
「そんなに…私が嫌いか…」
源氏は女のうなじにそっと口づけた。
後ろから女の顔を覗き込み、頬の涙を拭ってやった。
「…前世からの宿縁だと、諦めてはくださらないか…?」
源氏の優しい声のせいだろうか。女の肩の力が少し抜けた。
「このようにつれなくされると、私も辛い。…さぁ」
「私も辛うございます。このような身に成り果てる前ならば…思いがけない情けを受けて、私もあなたのお渡りだけを頼りに世を過ごすこともできたでしょう」
さめざめと泣きながら、女は胸のうちを語った。
「けれど、このような身分となった今…一夜限りのお戯れの相手とされては…」
「一夜限りでもなく、戯れでもないと言えば…?」
女は振り向いて、涙に濡れた目で源氏の顔を見つめた。
「あなたはこの先ずっとあの老いた伊予の介の妻として生きていくのか」
「それが…定めでございます」
「その定めを破ってみたいとは…思わない…?」
「…破れません」
「破れるだろう」
源氏は女の頬を伝う涙を唇で拭った。
「破りたいと思っているはずだ。運命に抗いたいと…。違う?…運命に復讐してやりたいと…」
源氏は女の瞳の中の闇をじっと見つめた。
「私は、思っている。運命に復讐してやりたいと」
決して埋められることのない欠落を持って生まれた自分の運命に。
最愛の人と決して結ばれることのない自分の運命に。
そしてこの世で自分の呪われた運命を象徴しているものが、父帝だった。
あなたにとっては、それが伊予の介ではないのか?
裏切るがいい。復讐するがいい。
私たちは似た者どうしだ。
「さぁ…怖がらないで。素直になって。私はあなたを戯れに抱くのではない。…どうか…さぁ…力を抜いて…」
女は源氏の言葉にほだされ、その逞しい胸にもたれかかった。
「…そう。…もっと力を抜いて。これじゃまるで生娘みたいだ…」
脇から差し込まれた源氏の手が、ゆっくりと女の体をまさぐり始めた。