空蝉 三 受領の妻 | 上目遣いのけんちゃん先生 V6カミセン 小説

上目遣いのけんちゃん先生 V6カミセン 小説

V6の三宅健と森田剛と岡田准一をイメージしたイケメン教師が、今どきの女子高校生たちと繰り広げる学園ドラマ。ドラマの進行の合間に出てくるけんちゃん先生の古典講義は勉強にもなる?

結局、方違えのために、源氏はごくわずかな供を連れて、紀伊の守の屋敷に泊まることになった。


紀伊の守の屋敷は、風情のある遣り水が配してあり、そのせいか風も涼やかだった。


虫の音がかすかに聞こえ、蛍も飛び交っている。



「いい所だね」



「突然のお渡りでなにぶん準備が整わず…。ただでさえ狭苦しいところへ、折悪しく、女どもが物忌みのためこちらに引き移って来ておりまして…」


紀伊の守は源氏の前に平伏した。


「女ども?」


源氏は首を傾げた。


「はっ。単身赴任中の父、伊予の介の妻と娘たち、それに女房どもでございます」


「伊予の介の妻というと…ああ、後妻か。そなたの継母にあたる方だろう。確か、わが父帝のもとに入内するはずだった衛門の督の娘…?」


「はっ。それが衛門の督が亡くなって後ろ見を失い、父伊予の介のもとに…」


「…そうか。父帝も、あの娘は結局どうなった?と気にしておられたが…」


父親が存命なら今頃後宮にいたものを、老いた受領の妻に身を落とすとは…気の毒なことだ。


「もともとご身分の高いお方なのだから、伊予の介は大事にしてるんだろうな」


「はっ。それはもう…」



源氏は、先日、雨夜に男たちがしていた話を思い出した。


受領の妻など、身分のそれほど高くない女の中に、かえって味わい深い、いい女がいるものだと。


ジジ…ッとかすかな音がして、燭台の火が揺れた。



「で、どんな方なの?」


源氏は顎から頬の辺りを撫でさすり、チラッと紀伊の守を見た。


「は?」



「そなたの継母というお方は」


聞いてから、目を伏せた。ふとよぎった邪な思いを気取られるまい、と。


「母と言いましても…私より歳若でございまして…///」



「へーぇ」


源氏は上目遣いで紀伊の守を見た。

というと…俺よりわずかに歳上という程度か。藤壺の女御くらいだろうか。


「老いた父が息子より歳下の妻を娶るというのは、いかがなものかと私などは思いますが…」


ははん。紀伊の守は、ひょっとしてこの継母に惚れてるな…?


源氏は口元に手をやり、片眉を上げた。


「しかし、だからと言って、あの好き者の…いや…風流人の伊予の介が、息子のそなたに譲るということもあるまい?」


紀伊の守はドキッとして、咳払いをすると話をそらせた。


「こちらが、その…弟でございます」


紀伊の守に紹介されて、ぺこりと頭を下げた少年は、もじもじと恥ずかしそうに源氏を見た。



「かわいいねぇ」


源氏は脇息に頬杖をついて少年を見た。


「父親の衛門の督が生きていれば、こちらも今頃殿上童だったかと」


「なるほど」

地味だが、殿上童として宮中にいてもおかしくない、品のよい顔をしている。


この少年の姉が、伊予の介の後妻。

姉もこれに似ているとしたら、美人だろうな。


我知らず少年の顔をジッと見つめていたのだろう。真っ赤な顔をした少年が源氏の視線に耐えきれずに俯いた。

源氏はフッと笑って少年から視線を外し、さりげない風を装って、


「で、その女たちはどこにいるの?」


と、辺りを見回した。


「皆下屋に下がらせましたが、まだその辺に残っているかもしれません。なにぶん狭苦しい屋敷ですので、失礼がございましたら、どうかお許しくださいませ」


「どんな失礼が…?」


源氏は首を傾げて、一段低い所に座っている紀伊の守を見下ろした。


「あ…いや…騒がしかったり…」


「かまわないよ。こっちが後から来たんだ。賑やかな方がいい」


源氏はそう言って微笑んだ。