光の粒 7 ナイーブな条 | 上目遣いのけんちゃん先生 V6カミセン 小説

上目遣いのけんちゃん先生 V6カミセン 小説

V6の三宅健と森田剛と岡田准一をイメージしたイケメン教師が、今どきの女子高校生たちと繰り広げる学園ドラマ。ドラマの進行の合間に出てくるけんちゃん先生の古典講義は勉強にもなる?

私だって条くんにあげたいのに。


そう言って、枕に顔を埋めた千帆の髪を撫でて、その背中を唇で慰めた。

「ちぃ…」

千帆を呼んで、こっちを向かせる。

仰向けになった千帆が俺を見上げる。


寂しげな瞳は、きっと、持って生まれたものなんだろう。でなきゃ、俺の愛が足りないって話になる。

あるいは、埋められない千帆の寂しさは、死に向き合う人特有のものなのか。


一緒に生きることはできても、一緒に死ぬことはできない。

死ぬときは、ひとりだ。誰だって。


「人は、求め合ったり、与え合ったりするもんなんじゃないかな…」


千帆の濡れた深い瞳に、俺が映っている。


「少なくとも、俺とお前の間で、与えるだけとか、求めるだけとか、そんなのは、あり得ない」



今、お前が俺を見てるように、俺がお前を見てるように、愛は双方向じゃないと、成り立たない。






その晩、俺は夢を見た。


何もない深い闇に俺と千帆が浮かんでいた。


俺の体から光の矢が千帆に向かって伸びていき、千帆の体からも、光の矢が俺に向かって伸びていた。


やがて光の矢が互いの胸に突き刺さって、引き合って、俺たちは抱き合った。


抱き合っているうちに千帆の体は光そのものになった。細かい光の粒子が集まってできた千帆の体は、やがて、崩れるように一粒一粒闇に散らばっていった。


俺は焦って、光の粒を掻き集める。


でも、俺が手にしたとたん、光の粒は、手のひらでぼうっと光って、そして消えた。

俺の手にあるのは無だ。何もない闇だ。


そんなふうに、次から次へと掴んだ光が消えていき…

とうとう、最後の一粒が、俺の手の中で明滅して、そして消えた。


辺りは全て闇に包まれ、どこからか線香の煙が白く闇の中を漂い始めた。


黒いスーツを着た俺が身じろぎもせず立っている。俺の隣で、健が泣いている。


…どっかで…見たことがある。



あれは…



佐倉が死んだときの光景だ。






そこで、ふいに目が覚めて、俺はガバッと飛び起きた。


「条くん?」


千帆も体を起こして俺を見た。


「大丈夫?怖い夢でも見たの?」



怖い…夢?


ああ、そうだ。


俺は手のひらを見つめる。


この上で、千帆のかけらが消えた。

千帆が…全部…。




そして…佐倉を失ったときの痛み…。



鼓動が早鐘を打つ。脂汗がじわっと噴き出す。


「条くん…大丈夫?」


「ああ…」


俺は手のひらを胸に当てる。


やべぇ…。
心臓がバクバク言ってる…。


俺は千帆の顔を見つめる。


ふいに、千帆が手を伸ばして、俺を抱き寄せた。


「条くん…」


華奢な千帆が俺を抱き締める。


トクトクトク…。


早くも遅くもない、規則正しい千帆の鼓動。


千帆が優しく俺の頭を撫でる。ゆっくり、何度も…。


涙が出そうだった。