※本日2話目の更新です。
11 条と千帆からどうぞ。
「あ。仕事、大丈夫?間に合う?」
「…うん。そろそろ…」
テーブルで勘定を済ませて、俺と千帆は、ラウンジを出た。
「あ。そうだ。桃がさっき、ママが何か大事なこと自分に隠してるんじゃないかって」
そう言った瞬間、千帆がビクッとした。
「も…桃が?…そんなこと言ったの?」
「うん…」
動揺する千帆を見て、それが事実だと直感した。
ロビーで待ってた桃が俺たちを認めて、微笑んだ。ちょっと微笑み返してから、俺は千帆に言った。
「何のことかわからないけど…ちゃんと話してやった方がいい」
「…うん。…そうね」
「…千帆?」
顔色が悪い。
「大丈夫か?」
「…うん。急いで来たから…ちょっと…」
すると、桃が心配そうに駆け寄って来て、今日はもう仕事を休んで欲しいと言った。
「ママと…話したいことがたくさんあるの…っ!」
もし、千帆がうんと言わなかったら、口を挟むつもりだった。桃の話をゆっくり聞いてやるべきだって。桃の切羽詰まった思いを感じたから。
だが、俺が口を挟むまでもなく、千帆は仕事を休んで桃と話をすると言った。
時計を見ると、俺ももう仕事に戻らないといけない時間だった。
でも、桃の切羽詰まった表情や、千帆の疲れた様子や、それに、千帆が隠してる大事なことというのが、どうしても気になった。
明日の朝、ふたりのすっきりした顔を見てから東京に帰るべきだと、俺の勘がそう言っていた。
「千帆…よかったら…ここに一泊しないか?桃と」
「え?」
「部屋取るよ」
そう言うと、桃に向き直って、
「桃、あいつとお前のためじゃない」
と言った。
「お前とママのためだ。ゆっくり話せよ。母娘で。ちょっと、疲れてるみたいだし…このまま帰すのも心配だ」
千帆が止めるのも聞かずに俺はフロントで部屋を取った。
「条くん…」
戸惑う千帆を呼んで、こっそり話した。
「ふたりでちゃんとよく話し合った方がいい。忙しいのはわかるし、それが桃のためだってのもわかるけど…桃は、今、不安がってる。こういうとき、しっかり向き合ってやらないとダメだ」
すると、桃が不安げな顔で、
「条くん…お仕事、いつ終わるの?」
と聞いた。
「え?」
「お仕事終わったら…条くん、来てくれる?」
「桃、ダメよ。無理言っちゃ」
「でも…」
俺は頭の中に今日のタイムスケジュールを思い浮かべる。今夜の全体レクが終わったら、すぐに消灯、点呼。俺の立番が11時30分まで。ホテルは目と鼻の先だけど…
「来れなくはないけど…遅くなるな。12時前」
「いいよ。待ってる。だって明日東京に帰っちゃうんでしょ?」
「ちょっと…桃!条くん、ごめんなさい。いいのよ。気にしないで」
「条くん…」
桃が訴えるように俺を見る。
『怖くて聞けない』
さっきの桃の言葉を思い出した。
「わかった。じゃあちょっとだけ顔出すよ」
そう約束して、俺は急いでホテルを出た。