「ふふ。ほんとだね。逆にナンパされてんじゃないかなぁ」
え?そんな呑気な…。仕事中でしょ?
…って、私も人のこと言えないか。公私混同してるよね。チラッと宝先生を見る。
はあ、笑い皺が素敵。
やがて、条先生が女性と別れて戻って来た。
生徒に囲まれて質問責めにあっている。
「うるさいうるさい」
って手で追い払いながら宝先生のところへ来ると、
「ナンパされちゃったぁ」
って呟いた。
「だと思った」
なぜかふたりは意味深に笑い合った。
「彼氏を空港に送って来たんだって」
「あ。そう」
「彼氏はいいご身分だよなぁ」
ってニヤニヤして宝先生を見る。
「でも、空港まで運転したのは彼氏の方じゃないかな」
「あ、そっか。ってか彼氏がいるくせに俺に声かけるって…相当あばずれだな。あの女」
宝先生が、
「あばずれ?」
って驚いた顔で笑って、
「…言ってろよ」
ってそっぽを向いた。
…?
なんだろう?この、ふたりだけに通じるみたいな会話。
宝先生の視線の先にはさっきの女性。
カーキ色のワンピースはベルトでウェストがキュッと絞られてて、歩くたびに揺れるヒップがセクシー。ルパン三世に出てくる峰不二子みたい。
女性が歩きながらサングラスに手をかけてチラッとこっちを向いた。一瞬口角が上がる。
宝先生が腕組みしたまま、俯いた。
見ると、にやけるのを隠すみたいに口元を手で覆っている。
あら。御多分にもれず、先生もああいうセクシーな女性が好みなんだ。
まあ、そうだよね。
先生も、しっかりスケべな男なんだと思ったら、ちょっとドキドキした。
「健くん、遅いね」
という宝先生の声で時計を見ると、集合時間が迫っていた。
「またあいつかよ」
って条先生が顔をしかめ、
「そろそろ、並ばせようぜ」
って生徒たちの方を顎でしゃくった。
「了解」
宝先生が拡声器を持って、生徒たちの前に立った。
「おーい。ヴィクトリー高校の生徒ー!そろそろ点呼取るから並べよー」
って片手を上げてブンブン振る。
「右から1組ー、2組ー…。それぞれ担任の先生んとこ行って出席番号順に並べー」
「先生ー!担任がまだ来てませーん!」
ドッと笑いが起きた。
宝先生が条先生と目を合わせて苦笑した。
条先生が、口に手を当てて声を上げる。
「じゃあー、5組は担任とあとの飛行機で来い!俺ら先行ってるわ」
「え〜〜っ!ウソ〜っ‼︎」