剛健版 星の王子さま 9 僕の花 | 上目遣いのけんちゃん先生 V6カミセン 小説

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V6の三宅健と森田剛と岡田准一をイメージしたイケメン教師が、今どきの女子高校生たちと繰り広げる学園ドラマ。ドラマの進行の合間に出てくるけんちゃん先生の古典講義は勉強にもなる?

その晩、俺と王子さまはいつものようにコックピットで体を寄せ合って、一枚のマフラーをふたりで肩にかけて星を眺めていた。


「あの星のどっかにさ…王子さまの大好きな花が咲いてんだ」


そう言って、チラッと王子さまを見ると、王子さまは少し照れた顔をして、うん、と答えた。


「綺麗なバラの花なんだ」


「なるほど。トゲがある。でもバラなら地球にだってあるぜ?」


「うん。知ってる。でもやっぱり特別なんだよな。僕のバラは。なんでだと思う?」


「色が珍しい…とか?」


王子さまはフッと笑って首を横に振った。


「バラが初めて蕾を開いたときの感動を今も覚えてる。めちゃくちゃ綺麗で、めちゃくちゃ嬉しかった。バラが咲いたことが。それから、世話をしてるうちに、あのバラは僕のものになったんだ」


「へーぇ」


「でも、バラは綺麗なのを鼻にかけてさ」


「花が鼻にかけてんだ」


「洒落じゃないって」


王子さまは眉尻を下げて笑うと、言葉を継いだ。


「あれこれ僕に注文をつけ始めたんだ」


「注文?」


「やれ朝は一番に水をくれだの、夕方には覆いガラスをかけてくれだの」



「いいじゃん。世話してやれば。好きなんだろ?」


「そうなんだよ。僕は好きだった。本当に。だけど、花はそんなふうにして僕に色々求めてきて…だんだん僕は、花に僕の愛を試されてるような気がしてきたんだ。

花がなんでもなく言ったことを僕はまじめに受けて、落ち込んだり、傷ついたりして…」



「わかるような…気がするよ」


俺は、花は育てたことはなかったけど、王子さまの言うことは、なんとなくわかった。…花と女って似てるんだな。




「僕はあの花の言うことなんか受け流してりゃよかったんだ。花は眺めるもんだよ。匂いを嗅ぐもんじゃん?」


王子さまは片眉を上げて俺を見た。


「あの花は僕の星をいい匂いにしてたけど…僕は少しも楽しくなかった…。

花に求められたことを、素直な気持ちでやってあげようとは思えなくなった。だって、花は、僕がどれだけ花を愛しているか試したかっただけなんだ…」





「…ほんとにそうかな?」




俺には、なんとなく花の気持ちがわかるような気がした。



「花も…王子さまのこと好きだったんじゃないかな」



王子さまは、しばらく黙って何か考えていた。


それから、ふぅと息を吐いて、両手で顔を覆った。


「君の言う通りだよ。僕は…バカだった。僕はあの花のおかげで、いい匂いに包まれてた。明るい光の中にいた。だから、花から逃げたりしちゃダメだったんだ」


王子さまは顔から両手を離した。



「意地悪でずるそうに見えても、根は優しいんだってことを僕は汲み取るべきだったんだよな。でもさ、ほんとに天邪鬼なんだよ。花って。でも、だからこそ、花の言うことなんか、いちいちまじめに受け取らなきゃよかったんだ…。花はそこに咲いてるだけで、充分僕を幸せにしてくれていたのに…」



王子さまは顔を上げて、満天の星を眺めた。





「…ほんとに愛するってことが、あのときの僕には…まだわからなかったんだ」




俺もつられて星を見上げた。



あの星のどこかに、王子さまがほんとに愛する花が咲いてるんだ…。


昼間、俺が花を意地悪だなんて言ったもんだから、王子さまは腹を立てたんだ。いや、王子さまは俺の中に昔の自分を見たのかもしれない。


弱く、無邪気で、ほんとは優しい花のことを、ずるくて意地悪な花だと思って、花の心をわかってやれなかった昔の自分を。