「きゃ…っ!」
「あ!申し訳ない」
思わず体ごと振り向くと、
「きゃあ…っ!」
姫がさらに悲鳴を上げて顔を覆った。
「あ!」
黄准は慌てて白布を広げて股間を隠した。
「いや、あの…姫、もう結構でございます!」
黄准はそう言うなり、ザブンと湯の中に飛び込んだ。
姫は、
「失礼します!」
と逃げるように出て行った。侍女が慌てて後を追いかけた。
黄准はふたりが行ってしまうと、隣の健白をジロリと睨んだ。
「健白様…」
「…なんだよ」
健白は、玉の汗を浮かべて、とろんと黄准に流し目を送った。
男ながら姫に勝る妖艶さに、黄准は不覚にもドキッとしてしまった。
「い、いたずらが過ぎます…」
「うるさい。お前が姫とイチャイチャしてるから」
「してないっ!健白様が…っ…健白様?」
健白がコツンと黄准の肩に額を預けて、
「上がるに…上がれなかった…だろぉ…」
と息苦しそうに言った。
「のぼせられたのですか⁇」
「…クラクラする…」
幸い、健白の湯当たりはたいしたことがなかった。
少し休憩すると、快王の招きに応じて酒宴の席に座った。だが、そこに黄准の姿はなかった。
さすがに酒席で王のふりはできない。臣下でありながら姫に背中を流させた黄准は、姫に会わせる顔がなかったのである。
快王は姫に晩酌をさせて、健白にこう言った。
「どうです?健王様。我が娘ながら美人でしょう」
「お綺麗ですね。あ。僕はもうけっこう。酒はあまり好みません」
姫は騙されたことを知っても、不思議に不快には思わなかった。
それは健白の美しさによるのかもしれなかったし、また、黄准の背中を流したことが嫌でなかったからかもしれなかった。
「それより…」
と健白はチラリと姫を見た。
姫はドキッとした。
主従揃ってお美しい…。
「黄准は『姫に会わせる顔がない』と、ひとりで部屋にこもっています。この度の戦の功労者はあいつです。よろしければ、黄准の所に、酒を持って行ってやってくれませんか?」