ってベンチに条と並んで座って、藤の花ソフトクリームを舐める。
宝は向かいで立ったまま、
「条くん、いただきまーす」
って、ソフトクリームをカプッと頭からいった。
宝がうまいこと甘えて、しっかり条に奢らせた。
三人でしばし無言で薄紫のソフトクリームを味わう。
「…藤の花…って…色だけだね?」
って宝が上目遣いで言う。
「そう?」
って条が、
「藤の味がする」
「ほぉんとにっ?」
「俺も」
「「するよなぁ?」」
って条とふたりで顔を見合わせると、
「ほんとに?一口ちょうだい」
って宝が顔を近づけたから、俺たちはソフトクリームをパッと引いて体でガードした。
「おんなじの食ってんじゃねーか!」
「同じだから!」
「だって俺の藤の味しないもん!」
「お前の舌がわるいんだよ!」
三人でワイワイ言ってたら、隣の夫婦と思しきカップルの奥さんの方に、クスッと笑われた。
つばの広い帽子を被った上品な女性だ。
ふっとすぐに俯いて長い髪を耳にかけ、ソフトクリームを舐めた。
条が俺の耳に唇を寄せて、
「人妻、人妻」
って弾んだ声で囁く。
「やめなさいっ」
って低い声でたしなめつつ、そっとその奥さんを盗み見る。
くっきりとした二重瞼、長い睫毛(人工的)。鼻筋の通った鼻。
なかなかの美人だ。
奥さんの視線の先を追う。
つばの陰から覗く瞳は、じっと宝を見つめていた。
あっというまにソフトクリームを食べ終わった宝は、くしゃっと片手で紙を握りつぶして、腕を上げた。
スッと紙屑がきれいな弧を描いて、離れたゴミ箱にポンと入った。
「ナイス」
って言った条の方をチラッと見て微笑むと、両手をポケットに突っ込んで横を向いた。
藤棚を見つめながら、眩しい春の日差しに顔をしかめている。
それから、見られてることに気づいたのかパッと振り向き、奥さんとバチっと目が合った。
視線は奥さんの顔に一瞬だけ止まって、また戻ってきて、足元に落ちる。
俯いてポケットから手を出し、指先で唇に触れる。
奥さんは、まだ宝を見ている。いや、見惚れている。
宝は唇をいじりながら眉間に皺を寄せる。難しい顔をしているのは、多分照れ隠しだろう。
奥さんの熱い視線を感じるから。
旦那の方は熱心にスマホを見ていて、奥さんの様子に気づいていない。
おいおい、こんな美人、ほっといていいのかよ旦那。もしも、宝が光源氏なら、人妻だろうが遠慮はしないぜ?
「行こっか?」
って宝が俺たちに言った。
奥さんの熱い視線から逃れたいんだろう。可愛いやつめ。
これが光源氏なら、逃げたりはしないんだけどな。気の利いた歌でも詠みかけて…。
「すげー美味しいっすね、これ」
って条の声が聞こえて…
え?光源氏、お前⁇
サッと立ち上がる条を見上げた。