「ペッラペラだったよね。ビックリしちゃった。何これ?え?って。わかんなかったもんね。振込用紙かなんか入ってんのかな?みたいなさ。いただきまぁす」
健が、俺が作った菜の花のパスタを口に運ぶ。頬を膨らませて、咀嚼する。
もぐもぐしながら上目遣いで俺を見る目が、美味いって言ってる。膨らんだ頬っぺたとクリクリした目。小動物みたいだな。
可愛いなと思いながらフッと笑って、
「何の振込用紙だよ」
って突っ込むと、
「え?だからあれ、ファンクラブの会費?」
ってニッと笑う。
俺は振り向いて手を伸ばし、棚の上に置いてあった封筒を取る。
中からカードを出して、眺める。
GO MORITA
ペラっとめくって、
GO MORITA
そして、剛の筆跡で、
森田剛
「…名前、書きすぎじゃねー?」
「デザインの一部なんでしょ。GO MORITA 。ほらほら、紙だって前の二人と全然違うじゃん」
「ふぅん」
「なんかさ、箱に入ってるクッキーとかチョコとかにさ、こんな説明書き入ってるよね?」
「ハハッ…。結婚の報告とクッキーの説明書き、一緒にしてやんなよ」
と言いつつ、確かにペッラペラだな、とひっくり返しては眺める。
「あれじゃない?破りやすいように」
「え?」
健がクールな表情を浮かべて、フォークを置き、水を飲んだ。
ゴクリと喉を鳴らして、
「だってさ…」
って喉に何かつっかえたのか、ちょっと顔をしかめた。
「あんまり立派だとさ、破るのにちょっと抵抗感じるっていうか、罪悪感とか?感じちゃうかもしれないじゃん」
「いや、破るの?」
それ前提か?
「破りたい人はいるでしょ」
ってまたパスタを口に運ぶと、
「俺も破ってやろうかな」
ってもぐもぐした。
「え?」
「冗談だよ。冗談に決まってるでしょ。破るわけないけど、どっか行っちゃいそうだなぁ。あんまりペラッペラ過ぎて。失くしそう」
「失くしたりはしねーけど…」
俺は、立ち上がって、棚から会報を入れたファイルを取り出すと、その中に剛のカードを丁寧にしまった。
「どうする?坂本くんはさ、その時が来たら、どっちにする?」
「どっちって?」
「ペラッペラ派か、厚紙派か」
「フッ…」
思わず笑ってしまった。
どうでもいいよ。そんなこと。
「健は?」
「俺はぁ〜…そうだなぁ…。ペラペラ派かなぁ」
「破りやすいように?」
「あ、もしくはさ、逆にー、すっごい硬い紙とかにすんの。コンチキショー!ってすんげー力入れないと破れないとか。なんか発散できそうじゃない?」
「ハハハッ…」
「必死に破ろうとしてるうちに、涙が汗に変わる、みたいなね」
健が空になった皿にフォークとスプーンを揃えて置いて、手を合わせた。
「ごちそうさま。おいしかった。春の味がしたよ」
「春の味?」
「うん。菜の花が、ちょっとほろ苦くってさ」
健はそう言うと、上目遣いで俺を見ながら、お上品にナフキンで口を拭った。
fin.