職員室に戻ろうとしたとき、ふと、誰もいない下足室のドアに一本のビニール傘が立かけてあるのが目に入った。
傘の持ち手に付箋が貼ってある。
気になって見に行くと、その付箋に
ヨシトミ
返却不要
ってボールペンで書かれてあった。
トクン…と胸が鳴った。
条先生の字だ…。
ヨシトミって…吉富、私のことだよね?
お礼を言いに条件部屋に行こうとしたとき、ちょうど校内放送が流れた。
『…数学科の先生方に連絡します』
あ。条先生の声だ!
『只今より教科会議を行いますので、数学科準備室までご参集ください。』
なんだ。会議か。
今から会議じゃ、お礼を言いに行けないな…。
また卒業式の日にしよう。返却不要と書かれてあるけど、ちゃんと返そう。
先生、ありがとう。
心の中でお礼を言って、校舎を出ると、傘を広げた。
条件部屋の窓から、吉富がビニール傘をさして校門を出るのが見えた。
ちゃんと気づいたな。
「さて…会議、会議」
教務手帳を持って出て行こうとすると、入れ替わりに健が入って来た。