大屋毘古神と同神とする説もある五十猛神を祀る、伊太祁曾神社境内の「木俣くぐり」





【古事記神話】本文 
(~その69 大穴牟遲神は木國へ)





今のうちに
こちらもサクサクと進めておきます。


是れに於ひて八十神見て且つ欺きて山に率入りき 而して大樹を切り伏せ 茹矢を其の木に打ち立て 其の中に入ら令め 即ち其の氷目矢を打ち離ちて 拷ち殺す也 爾に亦た其の御祖命 哭き乍ら求ぎしかば 見得て 即ち其の木を拆き 而して取り出で活して 其の子に告りて 汝此の間に有らずば 遂に八十神に滅さへなむ所と爲す 乃ち速やかに木國の大屋毘古神の御所に違へ遣りき 爾に八十神 覓ぎ臻り矢刺して乞ふ時 木の俣自り漏き逃し而して去にき 


【大意】
(大穴牟遲神が蘇生したので)八十神はまた欺きました。山に連れていき、伐って伏せた大樹に「茹矢(ひめや)(*)」を打ち、その中に大穴牟遲神を入らせました。そしてその「氷目矢(ひめや)(*)」を打ち放って拷ち(うち)殺してしまったのです。御祖命(刺国若比売命)は、また哭き乍ら大穴牟遲神を探し見つけて、その木を裂いて取り出し活かしました。そして言うには「あなたがここにいるといつか八十神に殺されます。だから速く木国(紀伊国)の大屋毘古神の元へ逃げなさい」と。そして八十神が見つけてやって来て矢を弓につがえて射ようとした時、木の俣からすり抜け逃げていきました。


【補足】
八十神たちは懲りずにまた大穴牟遲神を狙い殺そうとします。

◎「茹矢」「氷目矢」
ともに「ひめや」。文脈からみて同じものを指していると思われます。使い分けをしている理由は不明。

「精選版 日本国語大辞典」は、「割るとき、その割れ目にはさむ楔(くさび)として用いた補助用具か」としています。

◎大屋毘古神
ここで登場する大屋毘古神については、3通りの説に大分すると考えます。

*岐美二神の神生み段に登場する「大屋毘古神」
ここでは「家宅六神」の一として登場。
・石土毘古神 … 土を司る神か
・石巣比売神 … 砂を司る神か
・大戸日別神 … 門神の一か
・天之吹男神 … 屋上の神か
・大屋毘古神
・風木津別之忍男神 … 屋根が風に飛ばされないように持ちこたえる神か

それぞれの神格は「神名考」(堀秀成、昭和十九年)等によるもの。
本居宣長は「古事記伝」において「家宅六神」とはみておらず、以下の神としています。
・石巣比売神 → 上筒男神
・大戸日別神 → 大直日神と混同された神
・天之吹男神 → 気吹戸主神
・風木津別之忍男神 → 底筒男神または速須佐良比売神

*五十猛神と同神とする説
五十猛神は紀の八段の一書に、大八州国に樹種を撒き樹木を繁茂させた後、「有功神(いさおしのかみ)」として木国(紀伊国)に鎮まったとあります。
妹に大屋津比売がいること、スサノオ神の子であることなどから、大屋毘古神が五十猛神と同神とする説があります。

また「先代旧事本紀」には、「五十猛神 亦云大屋彦」とあります。

*木国の土着神とする説
これら以外に、上記二柱にはいずれも属さない木国の土着信仰神であるとする説も。





今回はここまで。

少々中途半端なところでぶった切りましたが、次回はその木国、「根の堅州國」へ。



紀伊国名草郡 伊太祁曾神社


*誤字・脱字・誤記等無きよう努めますが、もし発見されました際はご指摘頂けますとさいわいです。