泥臭い仕事
創業者としてカリスマ性をもっていたシャモ氏
どこかとぼけたところもありながら包容力のあるニワトリ氏
・・・それに対して、3代目のネコミミ氏は、言葉にするなら才色兼備。それはプレイヤーとしては魅力ではありましたが、果たして経営者として成り立つのか・・・当初、所内では、彼女に経営者としての器があるのか、疑問にもつものも少なくありませんでした。
しかしニワトリ氏は感じていました。
彼女には、誰にも負けない信念と、人に対する興味があると。
会計事務所というのは、人が辞めることが珍しくありません。もともと独立志向が高い業種でもあり、実家が同じように会計事務所で、一定年数が経つと家業を継ぐために辞める者も、少なくありません。また、繁忙期を含め、多忙であることから、体調を壊す者し、辞めていく者もいます。
7年前、ニワトリ氏がネコミミ氏に始めて会ったときの第一印象は、「優秀な人だな」というものでした。ニワトリ氏は鉄鋼王として有名なアンドリュー・カモネギーという偉人の大ファンで、自分の仕事は、「自分より優秀な者を集めて、働きやすい環境を提供すること」だと彼の考え方を拝借していたのですが、ネコミミ氏は「優秀すぎて大丈夫かな」と少し警戒していました。
「ネコミミさんは、どうしてうちへ?」
「私は今まで監査法人で働いていましたが、そこで行っていた監査
業務に常々、疑問をもっていました。もっとクライアントと近いとこ
ろで仕事がしたいと思って、御社を希望しました」
「ほぅ、それは珍しいですね。うちはあなたのように監査法人から何
人か転職しようときてくれた方はたくさんいますが、あなたのような
動機の方ははじめてですね。・・・ただ、初めに言っておきますが、
ここでは、あなたが今まで働いてきた環境とは、180°逆の世界だと
思いますよ」
「・・・」
「非常に泥臭い作業の連続だと思います。あなたが想像して
いる以上に」
「・・・。その履歴書には書くところがなくて書いていないことですが、
私は早くに両親を亡くして、それ以来、就職するまで、いろいろな
場所でアルバイトをしてきました」
「・・・」
「大学時代は、ある中小企業の経理のアルバイトをしていました。
私は経済学部でも法学部でもなく、文学部で社会学を勉強してい
ましたが、そのときの経験がきっかけで、会計士の道を進むことに
しました。今思えば、税理士を目指していれば遠回りしなくてすん
だのかもしれませんが・・・」
「・・・」
「私、泥臭いのは得意中の得意です」
そのとき、ネコミミ氏はここに来て初めて微笑みました。少し緊張していた表情が解けたとき、ニワトリ氏は、その笑みの中から、その言葉が嘘ではないことに気づきました。
「どうせなら、一番泥臭い現場で働かせてください。それが私の希
望です。そこには、私が求める『ありがとう』がありますから」
そして、彼女のひたむきさと、人間への興味に気づいたのでした。
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【補足】
たまにコンサルタント志望で「キレイな仕事」をしたいと思っている方がいらっしゃいますが、そういう方は、理想と現実の差に悩んで、真っ先に辞めてしまうようです。カタカナの職業というのは、たしかにかっこよさそうに聞こえますが、どんな職業であったとしても、非常に地道な作業の繰り返しです。
じゃあ、監査法人や大手の税理士法人はどうだろう、と聞いてみると、「自分が知っている名前の会社と仕事ができるのは面白いけど、それ以外は、やっぱり地味で地道ですよ。給料がよくても、残業も多いし」といわれました。
あのサッカー選手や野球選手だって、試合に出る以外の時間は、ある意味では、単純作業の繰り返しです。厳しいことを言えば、イチローになりたいけど、素振りはつまらないから嫌、というのと同じなのかもしれません。これは自分の仕事じゃないと言って辞めるのは残念なことですが、上に上がれば上がるほど、基本動作が出てくるものです。その基本をおろそかにしてしまうことが、実は一番怖いことだったりします。