2020年3月19日付の大阪日日新聞に、週刊コラム「金井啓子の現代進行形」第199回分が掲載されました。 本紙のホームページにも掲載されています。

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米大学の授業はウェブに移行 新型肺炎流行でも継続の工夫

 

 私が住むサンフランシスコ市は、新型肺炎拡大防止のため4月7日まで必要最小限以外の外出を禁じる命令を出した。生活必需品以外の買い物、不要不急な旅行が禁止となり、レストラン、スポーツジムの営業も禁じられた。違反は軽犯罪に当たるそうだ。

 最近までトランプ大統領がお気楽な見通しを示す一方で、地方自治体は悲観的な見方のもとに対策をとり、そのちぐはぐさに私は戸惑っていた。だが、ここに来て大統領の言葉に厳しさが増している。場当たり的にも思える連邦政府の変化を見ると、今後の対策の厳格化が不安だ。

 3月中に在外研究を終えて帰国する私の旅行は不要不急ではないはずだが、市内から空港へ行けるのか、日本への飛行機は飛ぶのか、心配は尽きない。

 全米で市民生活が大きく制限されているが、大学の授業も影響を受けている。

 たとえば、スタンフォード大学は冬学期の残り2週間の授業をオンラインに移行した。南カリフォルニア大学では試験的にオンラインの授業を3日間行うと発表したが、その後今学期はすべてオンラインで行うことになった。私がお世話になっているサンフランシスコ州立大学では、数日間休講した後、16日から遠隔授業を開始した。休講期間中には、ジャーナリズム学科の同僚たちがネットを活用した授業のこつを共有しあって準備する会議も開かれた。

 同僚のひとりに頼んでオンライン授業を見学した。といっても、スマートフォンの画面を見つめる私の周りには誰もいない。民間で広く使われているあるビデオ通話のアプリが、同大学の関係者専用のウェブサイトで使えるようになっているのだ。画面の向こう側では、自宅にいる同僚が学生たちに呼びかけ、同じく自宅にいる学生たちが発言する。説明資料も画面上で共有されていた。参加していた学生は20人程度だったが、授業の後半は小グループに分かれる機能を使って話し合いを行った。

 非常時とはいえ、全てを一時的に止めるのではなく可能なものは継続して、限られた経済力で大学に通う学生たちに必要な単位を取らせて予定通り卒業させようとする、大学側の強い意志を感じた。ほぼフルタイムで働きながら学ぶ一部の学生にとっては、卒業が1学期でも遅れることは相当な痛みを伴うからだ。

 日本では、新学期の最初の1カ月はウェブを活用した形態で行うと発表したり、開始日を遅らせるなど、対応が分かれているようだ。

 連邦政府と地方行政との対応の差に困惑したと同時に、大学での経験では、仮に私がウェブ活用の授業を求められたらどうするのかも考えさせられた。と同時に、米国のある大学の教員に聞いた「最近の学生は直接教室に来るよりネットの授業を好む」という言葉を思い出し、非常時だけでなく中長期的に目を向けるべき変化に直面していることも感じさせられた。

 (近畿大学総合社会学部教授)