2017年9月28日付の大阪日日新聞に、週刊コラム「金井啓子の現代進行形」第74回分が掲載されました。 本紙のホームページにも掲載されています。

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たかがトイレ、されどトイレ 旅の快適さを鉄道の駅にも

 

 子どもの頃に小学校の遠足でバスに乗ると、サービスエリアやドライブインでトイレ休憩を取ることがあった。出発時刻に遅れないように注意を受けてからトイレに向かう。だが、たどりついた女性トイレには外まで続く長蛇の列。もし乗り遅れて置き去りにされたらどうしよう。でも、トイレには行っておきたい。ひやひやしながら長い列が前に進むのを待つ。そんなことがよくあった。時には、あの緊張感が嫌で、次のトイレ休憩までがまんしておこうかと考えることもあった。

 

 だが、数十年たった今、ドライブの際にトイレを長々と待つことは少なくなった。私が子どもだった頃より自家用車の保有台数が大きく増えたことは間違いない。にもかかわらず、待たずに済むようになったのは、女性トイレの数が大幅に増設されたからである。だから今では落ち着いた気持ちでドライブを楽しむことができる。

 

 私が時々演劇を見に行くある劇場も、トイレが充実している。長い列ができていても、またたく間に前に進み、自分の番がまわってくる。数十メートルはあろうかと思われる廊下の両脇に50近くにのぼる個室が並んでいるからだ。おまけに個室のドアの上のところには、遠くから見て空室かどうかがわかるマークがはっきりとついているから、使われていない個室を待つような非効率な事態も起きない。

 

 だが、一方で頻繁に長蛇の列ができて、しかもそれがなかなか前に進まない場所もある。そのひとつが鉄道の大きな駅である。たとえば、私が東京に里帰りする際に利用する新大阪駅。何カ所か大きめな女子トイレがあるのだが、外まで続く行列を目にすることが多い。私が使おうとした際には新幹線の出発時刻に間に合わないことが心配で諦め、車内に乗り込むまで待つことが多い。小規模な駅では乗降客数も少ないのでそういった問題は起きづらいが、中長距離の列車が発着し通勤通学客や観光客でごった返す大きな駅では、新大阪駅に限らず「トイレ問題」を抱えているところが多いだろう。

 

 今、外国人観光客がかつてないほど多くなっており、観光面での日本の発展が期待されている。そういった中で、生理的欲求をきちんと満たせるインフラも重要だ。小さなことに思えるかも知れないが、快適さは旅の楽しみを決める大きな要素のひとつである。

 

 道路における変化は、利用客の動きをよく調べた結果だろう。道路の運営会社にできることが、鉄道会社にできないわけはない。鉄道の駅は近頃買い物や食事のスペースが質量ともに充実してきた。だが、それだけでは利用客のニーズに応えきれていないし、十分な魅力があるとは言えない。まずは、鉄道会社の人たちには大型駅のトイレに並ぶ女性たちの列を実際に観察して、どうすればもっと快適な旅となるのか考えてほしい。あの“緊張感”はもう要らない。

 

 (近畿大学総合社会学部教授)