世界的な有名ブランドのショーウインドウや Google本社のエントランスも飾る段ボール製の立体造形d-torsoは芸術品として美術館にも置かれている。

都会的で洗練された数々の作品を企画から製造まで全てを手がけて世に送り出しているのは国東半島の廃校になった小学校をリユースした株式会社アキ工作社。代表取締役社長松岡勇樹氏(54)に話を聴いた。

〇自分に向き合うことで前進する

緻密にして繊細な、しかも斬新的な発想の作品を生み出すことになったきっかけをたずねた「子どもの頃からプラモデルや粘土など手を動かして物を作るのが好きでしたね。大学は経済学部に進んだが周囲には美術系の大学がいくつかあり、そこで初めて本当に自分は何をやりたかったのかと考えて、大学を辞めたんです。」「自分の手元で手触りのある仕事がしたい」と美術大学を受け直したのが人生の転機だったという。私はキャリア教育の講義で学生たちに「どこに就職するか、ではなくどんな生き方をしたいかを自分に問いかけていくのが大学生活だ」と伝えている。コーチングの考えの基本は「答えはすべて自分の中にある」ということ。常に自分がどう思っていてどうしたいのかを根本から、正確にわかるということ。つまり自分を知ることが問題解決の出発点となる。氏は鋭い感性のもと真摯に自分と向き合い未来を切り開いてきた。武蔵野美術大学では建築学科に進んだ。卒業後は「あえて自分が苦手な方向に行きたい」とエンジニア系の構造計算事務所に就職する。そういった数々の経験がd-torsoを生み出すための資源となっている。それにしても表面がないにも関わらず見事な曲線や曲面のフォルムはどう実物化されるのだろう。「作品のアイディアはほぼ直感。パソコンが計算するわけではなく頭の中で構造化して組み合わせて複雑なものができあがるんです」と語る氏は芸術家としての感性と建築家、エンジニアとしての卓越したロジカルな思考力を兼ね備え、それを見事に作品表現しているのだ。

〇時間(とき)までもクリエイトするナイスガイ

都会と地方の時間はその流れも質も異なる。しかし、1日24時間は誰にも平等でありかけがえのないものだ。プレミアムフライデー、ワーク・ライフ・バランスということばが飛び交い働き方改革に向けた取り組みがいよいよ本格的になってきた。松岡氏はすでにその先駆けとなろう「国東時間(くにさきじかん)」なる週休三日制を会社に導入している。創業以来右肩上がりであった売り上げが初めて前年を下回った時に、この土地で豊かに生きていくための生活と仕事のバランスを見直すために取り入れた。「出勤は週4日。あとの3日はゆっくりと趣味に使っても良いし、野菜を作って副収入を得ても良い。土地固有の時間を個々が取り込めば、それが個人のスキルアップにつながり事業の効率をあげることになる」という。この取り組みによって売上高もアップし仕事の効率化も進んだ。しかし、時間の使い方やモチベーションも多様な時代にあって個々に差があることも最近は一つの課題となっているとも語る。氏の思考は常にPDCAサイクルが機能している。うまくいっていることもチェックを欠かさず改善しより良い形を模索しているのだ。そして「時は金なり」以上に時間は生命と同じ価値があることをこの土地で感じている。

〇OSとして残すこと

今後の目標は「まずは継続。会社自体が一つの地域共同体だと考えていて、この会社をOSとして今ある販路・人間関係・ネットワークというツールを使って僕がいなくなっても継続していけるシステム作りが最大の目標ですね。ただ、場所だけは国東半島でありたい」空気までが神々しい仏の里の静かな山間(やまあい)と理知的でダンディーな氏の語りがステキに溶け合う。