毎朝、ラジオから流れる大分放送アナウンサー村津孝仁氏(40)の声は低音の弦楽器にも似た安定感のある心地よい響きがする。明るい話題や白熱したスポーツの実況中継はもちろんのこと災害などの緊迫した場面でも正確な情報を知りたいときに氏の声が聞こえてくるとなぜかとても安心する。



 ○気づかぬ自分に気づくこと

 高校生の時から放送局の仕事に興味を持っていたが制作畑での仕事をイメージしていた。しかし、いくか受験した放送局では「君はアナウンサーに向いている」と言わた。そういえば母親から「あなたはものごとをわかりやすく説明するのが上手」と言われたことも。人は自分には見えていなかった自分の強みを周囲から気づかせてもらうことがある。そしてそれがみごとに天職につながった。



 ○真摯であることと謙虚であること

アナウンサーとして、テレビやラジオの向こうにいる不特定多数の視聴者に対して、自分の思いを伝える仕事で心がけていることをたずねると「絶対に人を傷つけないこと」ときっぱりと言った。「言葉って怖いんですよね。何気なく使った言葉で人を傷つけてしまったり、あいづちの抑揚ひとつでも偉そうに聞こえてしまうこともある。相手が見えないだけに聴いて下さる方たちに失礼がないように神経を使います。」ラジオではメッセージを下さったリスナーの方とマンツーマンで語りかけるように、テレビでは大きなホールでたくさんの方々に呼びかけるように話す。真摯で謙虚、そして慎重派の氏は先輩に言われた「マイクの前に立つまでは世界一の臆病者でいろ。マイクの前に出たら自分が世界一うまいと思ってしゃべれ」ということばを常に心に置いているという。わかりやすく、正しく、気持ちのこもった情報伝達をしていくためには人を思いやり、寄り添うことができること。いつも人に敬意を払い謙虚な気持ちで向き合う人に自然と人は惹きつけられるものだ。だから、誰からも信頼され好感を持たれるアナウンサーなのだ。



○ファシリテーターとしてのキャスター

アナウンサー、ナレーター、司会など何でも器用にこなすが現在、OBS(大分放送)初のゴールデン帯生番組でキャスターを務めている。「流した映像、スタジオのコメントにいかに信頼性を持たせるかがキャスターの役割だと思う。良いつなぎ役でありたいです。」今、企業でも教育現場でも、活動が容易に運ぶよう中立的な立場で場を舵取りする“ファシリテーション”が注目されている。そういったファシリテーター(促進役)として氏は実に見事に番組をコーディネートしている。



○好きになること

自身の強みをきくと「何でも好きになることと探究心」だと言う。苦手なことでも任された仕事を好きになろうとする。するとおもしろくなりもっと知りたくなって調べていく。いつしか大好きで得意なことになってしまうので、たいていのことは乗り越えられる。そんな姿勢は後進の指導にも活かされている。「基本的なことはしっかりと伝えて、あとは背中を見て覚えてもらえるように自分自身も精進しなくては」と。

 夢は一番好きなナレーション部門でアノンシスト賞の全国最優秀を獲得すること。「映像とBGMとナレーションが構成する三要素で制作者の意図に応えるためには出過ぎても印象に残らなすぎてもいけない。ちょうど良いところに落としていくことを目指しています。」とにこやかに語る。その声は繊細でやさしく聴く人の心を包み込むチェロのメロディーのようだ。