今でこそ、コーチング、ファシリテーシヨンのプロですが、元々は音楽が専門です。

「好きだから」「なりたいから」だけでは通用しない世界だと知っています。


子どもの頃、銀座でベートーヴェンの自筆の楽譜を見たときから私も将来音楽家になりたかった。しかし望むだけでは思うように夢は叶わないのが芸術家の世界だ。

艶やかにして重厚なビロードのような歌声がホールに響く。バリトン歌手渡邊弘樹氏はチャンスだけでなく確かな実力とたゆまぬ努力によって一流の音楽家として輝いている。



○2番でなく1番になったこと

高校の音楽の授業で教師から声をかけられ出場した音楽コンクールで最優秀をとった。人前に出るのもあまり好きではなかったし将来は獣医になりたいと理系のコースで勉強をしていた氏が、その後声楽家を志す気持ちになったわけをたずねた。「今までいろんなことに挑戦してきましたが、2番になることはあっても一等賞をとったことはなかったんです。それに舞台で出て歌ったときとても気持ちが良かった。」オリンピック選手の金メダルのように一番になるということは自己実現のための大きなエネルギーとなったのだろう。その後熱心に音楽の道を勧めてくれた教師たちに両親も説得され国立音楽大学へ進学し、なんと首席で卒業した。松下幸之助氏は著書の中で「人間はダイヤモンドの原石である」といっているがこれはコーチングでよく使われる考え方だ。しかし、石炭のような真っ黒な石に「ダイヤモンドかもしれない」と光をあてる人がいてこそ、原石は磨かれることができる。光をあててくれた人たちとの出会いは幸運であるし、もちろん本人が本物であったからこそ磨かれ真の輝きを放つことができる。



○前向きに、笑顔でいればなんとかなる

大学卒業後はイタリアに渡りフィレンツェ国立歌劇場の声楽国際オーディションに最年少で初の第1位合格。2006年には日本人として初めて同歌劇場と終身契約を結ぶ。

音楽に国境はないとはいえ、西洋がルーツであるクラシックやオペラの世界で文化や風土、民族に根付いたものと捉える人々から違和感を持たれなかったのかと聞いた。「はじめは完全にいじめにあいましたよ。半年くらいは面と向かって辛い言葉を浴びせられたりもしました。けれどイスラエル公演が終わった頃から、逆にヒロキは劇場のマスコットだと可愛がられるようになりました。それまで辛いときには何を言われてもとにかく笑っていましたね。気にせず何があってもポジティブに考えることにしていたんです。」その大らかで明るい人柄とにこやかな笑顔はまるで陽気なイタリアのナポレターノそのものだ。周囲も徐々に氏の真の実力を認めたからこそ仲間として、最上級の歌手として受け入れたのだろう。

○原点を大切にすること

とかく敷居が高いと思われがちなオペラをわかりやすく身近なものだと伝える活動や様々な支援活動も精力的にこなしている氏だが、後進の指導で心がけていることをたずねてみた。「自然体であることと原点を大切にすることです。歌い手は声を出すことで何かを伝える仕事ですが勉強すればするほど色々な知識が入りすぎて頭でっかちになってしまうことがあるでしょう。常に原点に帰ることを大切にするよう伝えています」

気分転換はプロ級の料理。肉料理からドルチェまで料理番組に出て欲しいと言われたほどの腕前だ。「食べたもので人の身体はできているでしょ。健康で良い歌声のためには旬の良い食材を使って料理して食べています」

青い空と海、明るい太陽が実によく似合う実力派は日本の誇りだ。