上等な生地とセンスの良い色柄の組み合わせでできた布製のブックカバーをいただいた。ちょっとした縫い目のカーブも見栄え良くオシャレに機能的に工夫されている。今年で創業150年を迎える株式会社太田旗店会長太田光則氏(72)が自ら縫い上げた手作りの品だ。社旗、校旗、国旗、大漁旗をはじめ、のぼり、のれん、幕、半天から手ぬぐいまで日本中のあちらこちらで一度はこの会社の製品を目にしているだろう。とりわけ最近の斬新なデザインの小物は東京のデパートでも目を引く。


6代目の社長職を退いてからも店やアトリエの一角でミシンに向かっている。「(社長を)辞めてから周囲に今までゴミとしか見ていなかった端切れ布がいっぱいあって、これは宝の山だと。何か使い道はないかと考えたのが発想の原点なんです」


○魂を打ち込んで集中すること


大分市の小さな染工場からスタートした太田旗店は分業制が大多数を占める染色業界において今や企画デザイン、染色、縫製から製品化までを一貫生産する企業に成長した。

法学部に在学中、兄を亡くし家業を継ぐこととなる。「夏休みも毎日のように家の手伝いをしました。工場の仕事や営業、経理もやりましたね。」職人としての自身をどう見ているかをたずねた。「手先もあまり器用では無かったし愛想も良い方ではない。けれど集中力は結構あります。何でも魂を打ち込んで集中すること、そして続ける努力が大切だと思うんです。」50代後半のときにケガで入院した病室でも独学でパソコンをマスターするほどの努力家だ。東京方面へも自らサンプルを持って営業し販路を拡大してきた。


○誇りはここで働く社員


会社の魅力は何かと聞くと迷わず「ここで働いている社員です」と答えた。職人の世界は人から人へと技術を受け継いでいく厳しいものだが、その技やコツを身につけるまでには時間も根気もいる。大切な社員に長く働き続けてもらうためには従来の職人仕事だけではなく、アナログの部分も守りつつデジタル化も模索し良い意味で効率化を図ったという。「変えられぬものを受け入れる謙虚さと変えられるものを変える勇気」は組織をゆるぎないものにする。皆が一緒の気持ちで働いてくれることがうれしいと、しばしば社員たちと食事をする。県外の出張先でも必ず会食の場を設け自身も若いエネルギーを吸収しているのだというが、そういった一人一人を大切に育てる職人気質が長く仕事を愛し、会社を愛する社員を育てたのだろう。


○新たな挑戦と楽しみ


趣味は写真を撮ること。「木の根っことか、花々は1つ1つが皆違う個性があってパワーもある。」というところはやはりアーティストなのだと思う。数々のボランティア活動や社会貢献もしてきたが、今後は大好きな「ものづくり」を生かしてワークショップをしてみたいと考えている。長寿高齢化の今、誰もが健康に楽しく年をとるためには「新しいことを習得する意欲」「仲間をつくり交流することによって人間関係を豊かにする」ことが大きな要素となる。そういったシニアが集う楽しげな場作りを計画ているという。










「ガラクタに近いような生地でも、そこから何かを作って仕上げていくっていうのはもの作りの醍醐味だからね」若々しくダンディーな笑顔で語る氏が丁寧に縫い上げた作品は世界にたった1つしかない芸術品であり、宝物だ。