あなたは「話し合い」が好きですか?

 

本書は、このような問いかけから始まります。

 

ちなみに私は苦手です。

 

好きだという方も、きっといらっしゃるでしょう。

 

でも、私のように、苦手だと思っている方は結構多いのではないかと思います。

 

本書では、「企業の話し合いは機能不全に陥っている」といいます。

 

私もそう思います。

 

本書で指摘している以下のような光景は誰にでも身に覚えがあるでしょう。

 

「リーダーが権力を用いて結論に誘導して、自由な意見交換を妨げる」

 

「声の大きい人の意見だけが、いつも会議室にこだまする」

 

そして、「話し合い」で決まった結論に対し、「メンバーが『俺は知らない』という態度を貫き通す」

 

会議に出ていて発言しないメンバーが「話し合い」の結論に納得しているとはいえないのです。

 

また本書では、企業だけではなく、学校でも、果ては日本のゆくえを左右する国会でも、この「話し合いの機能不全」は起こっていると指摘しています。

 

私は特に企業においては、「労働時間の短縮」や「在宅勤務」といった、いわゆる「働き方改革」が、この「話し合いの機能不全」に拍車をかけている気がします。

 

私の会社では、少し前まで会議というと2時間枠を取って実施するのが定番でした。例えば、所属部署の定例会議、プロジェクトの進捗会議などがそうでした。

 

リーダーはじっくり時間を使い参加メンバーから状況や背景を聞いていたものです。参加メンバーも他人の話を聞いて意見したり、自分の身になって考えたりしたものでした。今はというと、短時間の会議が「良し」とされ、1時間以内の会議が多くなっています。

 

会議時間が半分になっても、「効率よく」、参加メンバー全員から意見を聞くことはできます。しかし発言にはポイントを絞るように気を使い、リモート会議ともなれば、考える時間、つまり沈黙の時間は許されがたい雰囲気をまといます。

 

在宅勤務で孤独感をつのらせる方もいると聞きます。これは私の意見ですが「働き方改革」のために必要な「話し合い」の時間が減っているのではないでしょうか。

 

本書によると、「話し合い」とは「雑談」のことではありません。「雑談」は私も大好きです。

 

自分と相手、二人での「雑談」なら例えばこうなります。このときの相手は、家族でも、知人でも、会社の同僚でも、誰でも構いません。

 

相手が、私が知らなかったことを話し、それを私ができるだけ黙って聞く。話の最後には、だいたいオチがついていて、そのオチを聞いて二人で笑い合う。それから、「そういえば、似たような話でね」とか、今度は私が話す番になる。

 

こんな「雑談」なら、私もそうですが、みなさんも得意なのではないでしょうか。

 

オチと書きましたが、オチなどなくても結構。スベルことだって当たり前。「雑談」は人と人とをつなぐコミュニケーションで、これが人間関係を豊かなものにするのでしょう。

 

そして、問題は「話し合い」です。

 

人と人との会話では時折、意見にズレが生じます。このズレは「雑談」でも発生します。しかし「雑談」なら、そんな意見のズレは放っておけばいいのです。ズレをわざわざ、ほじくり返して、事を荒立てる必要などどこにもありません。

 

しかし「話し合い」では、この意見のズレを、放っておくわけにはいないのです。

 

なぜかというと、「話し合い」では結論を求められるからです。

 

結論とは「話し合い」が必要となる背景や課題に対し、「何をする」、「誰がやる」とか、そういったことです。

 

結論が不要な「話し合い」などないでしょう。それでは先ほどの「雑談」と同じになってしまいます。

 

そして、その「話し合い」では、自分に不利益となる意見を放ってはおけません。放っておけば、自分には無意味と思える仕事を、精神的な苦痛をともないながら、延々とやることになるかもしれないのですから。

 

「話し合い」では、だからつい相手の意見を否定してしまいます。

 

いつかニュースでみたような、偉い先生の話とか、客観的な証拠を引き合いに出し、相手の意見を全力で否定します。

 

そして「話し合い」は徒労に終わり、人間関係も悪化していく。

 

これが、本書でいう残念な「話し合い」の一例だといえるでしょう。

 

では、どうすればいいのか?

 

そのヒントを与えてくれるのが本書です。

 

本書では、「話し合いについて、『教えられ、学ばれていない』にもかかわらず『実践しなくてはならない』という『ねじれの状況』が出現」しているのが問題だといいます。

 

また本書では、「話し合い」は学び、経験し、その経験を振り返るプロセスが重要だと説きます。

 

ほとんどの人は人生を、自分勝手に生きられるとは思っていないはずです。

 

私には不利益だと思える仕事を振る相手にも、その背景には何か納得できる理由があるのかもしれません。

 

また相手の本当の狙いを、こちらが過大にとらえている可能性もあります。

 

本書の中で紹介されているケースのように、仕事量を、様子を見ながら徐々に増やしていければいいという意見を、こちらが性急と捉えてしまうとか、見方の相違はよくある話だと思います。

 

もし本当に相手が一方的に話をする人間なら、今回はじっくり話を聞いて持ち帰り、それから断ってもいいのです。

 

結論を出す前によく「話し合い」、まずは相手の意見とのズレを自分が認識すること、また自分の意見とのズレを、相手にも認識してもらうことが重要なのです。

 

本書は、私にそんなことを気づかせてくれました。

 

私と同じように「話し合い」が苦手だと考えている方は、ぜひ本書で「話し合いの作法」を学んではいかがでしょうか。

 

出典:「対話と決断」で成果を生む 話し合いの作法

2022年9月、著者:中原 淳、発行所:株式会社PHP研究所