パート中――
今日もジェジュンに
呼ばれた。
他のスタッフの手前、
表向きは
オーナーによる
新人研修みたいにしてる。
実際に研究しただけあって、
コーヒー豆の種類や
焙煎のことに
ジェジュンは詳しかった。
時どき
テーブルの清掃に
回るスタッフが
横を通ると、
そんな話をして
誤魔化してた。
でも、
みんな
気付いてるんじゃないかな。
これまで
ジェジュンは
店に来て
音楽関係の仕事しか
していなかったし、
他のスタッフが
店に入った時
そんなオーナー研修なんて
なかったはずだから・・・
ジェジュンは
それに気づいているのか
いないのか、
気にする素振りも見せないで、
私を誘う。
どうしてなの――
聞かなくても、
感じるものがある。
はっきりさせるのが
怖くて
私は気づかないフリ。
だけど
それももう限界に来てた。
どんな音楽作ってるの?」
不意に聞いた言葉――
「聴きたい?――」
これまで
笑顔だったジェジュンが
急に
真面目な顔をした。
その顔に
ドキッとして、
なぜか
進んではいけない
扉のドアを
ノックしてしまったような
気がした。
「出よう?――」
外に出ようと
私を誘い出す。
「でも・・・」
仕事が・・・――
「いいから・・・」
それぞれの仕事を
しているスタッフに
気付かれないように
そっと抜け出した。
オープンテラスの
ベンチに座って
私が出てくるのを
コーヒーを
啜りながら
ジェジュンは
待っていた。
「どうして外・・・なの?」
中でも
聴けたのに―――
「ここの方が
静かだろ?眩しいけど・・・」
暑いから
外の席に座る人は
誰もいない。
私たち二人だけ――
テーブル席ではなく、
店の壁に並んだ
ベンチに並んで座った。
手にした
音楽プレーヤーを
操作して―――
「はい――」
片方のイヤホンを私に。
もう片方を
自分の耳に・・・
ジェジュンと繫がって
流れてくるメロディーを
静かに聴く。
決して
心は穏やかじゃない。
だけど――
「素敵な曲――」
「ホント?・・」
疑いの目――
どうして?
「本当だよ!」
ジェジュンが
近くて
びっくりして
少し体を離した。
「じゃあ、これは?――」
ジェジュンが
もう一つ聴かせてくれた曲――
「俺の気持ちが
書いてある。」
「・・・」
潤んだ瞳を見ながら、
耳に聴こえる
ジェジュンの声を聴いていた。
「・・どうして
自分で歌わないの?」
綺麗な声――
「裏の仕事の方が
好きだから。
歌うより、
作る方が
向いてる気がする。」
「そうかな?
もったいないよ・・・」
「そう?・・・
〇〇のためになら、
歌うよ?」
一人だけのために――
「・・・」
ジェジュン・・・――
太陽がまぶしくて
そっと
目を閉じた。
耳に聴こえる
ジェジュンの声は
”愛”を囁いている。
曲や声・・・
素敵なのは
それだけじゃないって
わかってる。
ジェジュンが書いた
詞に胸が苦しくなる。
”俺の気持ちが
書いてある”―――
そう言ったよね・・・
眩しく照らす太陽が
遮られたのが
目を閉じていても
わかる。
影が出来たのは・・・――
目を閉じて・・・
動かない。
待っていたから―――
あなたが好き・・・――
その唇で
そっと口づけして欲しい。
悪い夢から
覚めるかも・・・
・・なんて・・・ね―――
私には
夢のようなシンデレラストーリー。
でも、ジェジュンには
悪夢の始まり・・・。
所詮私は
既婚者で
ジェジュンのものには
なれないのだから・・・――
「ふふっ・・
本当に良い曲だね?」
聴き入っちゃった―――
体を後ろに、
顎を軽く引いて
触れてしまいそうな
唇を避けた。
目を開けたら、
不自然なほど
近くにジェジュンが居た。
なぜ?・・・――
私に問う目を
見ないようにして、
あるべき距離に戻った。
私とジェジュンの間に、
コーヒーカップを置く。
ここから先・・・
入って来ないで――










