映画「1984」についての探偵の言い訳そのY
次回(映画「1984」:ブッグ・ブラザーを愛するようになるまで(4))に限り,読者の皆さんにはできれば飛ばしていただきたい。あまりに陰鬱なためです。この映画の中で最も重要な部分ではありますが,そんなものかな,ぐらいでエピローグまで進んでいただきたい。探偵から切にお願いします。
従って,コメントはエピローグまで進んだ段階で頂戴したいと思います。
その代わりといっては何ですが,恐らくオーウェルがこの映画のヒントを得たと思われる著書を紹介しておきます。
勃興しつつある「資本主義社会」の正体とはなにか,真の民主主義とは何か,を考察した重要な記録です。
アレクシス・ド・トクヴィル著「フランス2月革命の日々」
さらに,オーウェル自身の政治思想は,という面に関心がおありの方は「カタロニア賛歌」(Homage to Catalonia)を是非お読みくださるよう。ワタシが学生時代に読んだペンギン版の表紙には2種類有り,1つは真っ赤なバラの花に巣くう白い毛虫,もう1つは有名なキャパの写真「撃たれる兵士」でした。
映画「1984」:(11) ビッグブラザーを愛するようになるまで(3)
「ニュースピーク辞書」の第10版だ。
しかし,中扉を触ってみると,それは二重になっており,内側に書いてあった本当のタイトルは,
エマニュエル・ゴールドスタイン著「寡頭支配による集団主義の原理と実践」であった。
テレスクリーンでは敵であるイースト・エイジアとの戦争に向けたアジテーション演説が続けられていた。
-暴虐を尽くすイースト・エイジアに死を!
人々は口々にビッグブラザーを讃えている...
- ダブルスィンクの原理に従えば、戦争が事実であるかどうか、
何時それが起こるかは問題ではない。また勝利というのは本来的に不可能である。
戦争の意義は継続にある。近代戦における本質的な活動とは人間の労働により産み出されたものの破壊である。
階層的な社会は貧困と無知を基盤とした場合にのみ可能となる。
原則として、戦争行為は常に社会を飢餓の淵に立たせるように計画しなければならない。
戦争は専ら主体(自国のこと)に反対する支配的グループ(敵のこと。探偵注)の側が引き起こすものである。
そしてその目的はユーレイシアやイーストエイジアに勝利することではなく、自分たちの社会の構造を緊密に保つことである。


目が覚めたかい?
なんだかお腹がすいたわ。コーヒーでも入れ直しましょ。
お湯が冷たくなってるわ。変ね,石炭も沢山あったはずなのに。
窓の下ではプロレタリアのおばさんが歌を歌いながら洗濯物を干していた。
They say that times heal all things,
They say you can always forget
But the smiles and the tears across the years
they twist my heartstrings yet. (注1)
「おばさんの腰まわりはゆうに1メートルはあるわね。」
「でもそれが自然な美しさなんだ。未来は彼女達の側にある。」
「私たちは死者だ。」
そのとおり,お前達は死者だ。そのまま動くな!
「私たちはどこからか見られているわ。」 「その通り,お前達は包囲されている。」
突然,壁の絵が落ちて中からテレスクリーンが現れた。ビッグ・ブラザーがこちらを睨みつけていた。

「手を頭の上で組め。部屋の真ん中で,背中合わせに立て。」
窓が破られてソート・ポリスが侵入してきた。ソート・ポリスはドアからも入って来た。
「私たちはさよならを言った方がいいみたいね。」 「その通り,お前達は別れの挨拶をする必要がある。」
珊瑚を封じ込めたガラス玉を見つけた兵士は,それを無造作にゴミ箱に放り込んだ。壊れた珊瑚が床に落ちた。
ジュリアの側に回ってきた兵士がいきなりジュリアの下腹部を力任せに殴りつけた。
そしてジュリアを担ぎ上げるとドアから出て行った。入れ替わりに男が現れた。
「それを拾っとけ。」
アンティーク・ショップの主人はソート・ポリスだったのだ。
ウィンストン・スミスの意識は遠のいて行った...(続く)
注1:時がすべてを癒すと言うけれど,
人は忘れることができると言うけれど,
微笑みや涙は何年も続き,私の心の糸が縒り合わされて行く...
(イスラエルのフォークソングより)。
映画「1984」:(10) ビッグ・ブラザーを愛するようになるまで(2)
オブライエン,その本当の名は?
愛情省の建物は首都の何処からでも見える巨大な建物であった。その方形の塔の四方の壁麺からは常にビッグ・ブラザーが鋭い視線を人民に対して向けていた。
ウィンストン・スミスは執事に案内されて愛情省の奥深い場所にあるオブライエンの執務室に入った。エレベータ内はもとより,廊下の到るところにテレスクリーンがあり,そこではアンパーソンの新たな対象者が次々と読み上げられていた...
オブライエンは「文書の検閲」作業を続けていた。
-この見解には6ダブルプラスの馬鹿げたクライムシンクすれすれの... 削除せよ。ピリオド。-
スミスに気がつくと,彼は「かけ給え」というように手で指し示した。
執事が二人のグラスに酒を注いだ。
「これはワインと言う飲み物だ。残念ながら党の外部までは行き渡らないのでね。」
「我々の指導者に,乾杯!」
オブライエンは振り向くと,折しもゴールドスタインが映し出されているテレスクリーンのスイッチを切った。
「あなたはスイッチを切ることができるのですか?」
オブライエンは語りだした。
「レジスタンスを続けているソートクリミナルは実際にはいない。しかし,どうかそれが実際にいると信じてくれ,ウィンストン。おそらく君はそれがどのような働きをするのか良く知らないだろう。」
「私はいつもニュースに耳を傾けています。」
「そうか。おそらく君は陰謀を企む巨大な集団を想像しているだろう。何か残虐な行為を働いたり、社会の道徳や秩序を弱体化させようと企むような。しかし,実際はもっと、ずっとぼんやりしたものだ。もしゴールドスタイン自身がソートポリスの手に落ちたとしても、彼は自分達のスパイのリストを提出することはできないだろう。そのようなリストは存在しない。それは通常我々が知っているような組織ではないのだ。
実体ではなくて、概念に過ぎないのだから。
彼らが望むような変化は彼らの生きているうちには起こらないだろう。ソートポリスを前にすれば、彼らは集団として行動することは不可能だ。1人一人ばらばらに、お互いを騙しあい、事実を曲げ、脅迫し、そして子供たちをスポイルする。病気や売春を広めるのがせいぜいだ。
知識の普及という名の下に、世代から世代へと。
そして、やがて千年もするうちに…」
ああ,もう時間だ。その本は君が関心を持つと思うよ。持って行きたまえ。」
オブライエンは振り向くとテレスクリーンのスイッチを再び入れた。画面いっぱいにビッグブラザーの顔が現れる。
オブライエンは最後に言った:
"Good bye, brother."
(続く)


































































































