「美しき諍い女」予告編
今回はカンヌ映画祭でグランプリを獲得したジャック・リヴェットによる「美しき諍い女」をお送りしたいと思います。これはもう大家の域に入ったと言われている画家が昔断念した題材を新たなモデルを得て,それに闘争を挑むという作品です。闘争は画家だけでなく,モデルをはじめとして,昔断念した方の絵のモデルであった今の妻,その妻のかつての恋人で現在画商としてこの大家を買っている男,そして新しいモデルの現在の恋人で駆け出しの画家である青年の間で繰り広げられます。また,ゴダールと並んでカイエ・デュ・シネマの中心人物だったジャック・リヴェットはシナリオを一切書かないことで知られる気鋭の監督でもあり,また実際の絵を描いているのが本当の画家であるベルナール・デュフォー(絵の進行はクロノロジカルに辿られている)であるという,関係者全員の間の真剣勝負でもあります。日本で公開時にはヘアが見えるか見えないかという低次元の話題が起こったのは,まことに見当違いであった,という他はありません。さらに言えば,それを撮影するという立場にいるカメラマン(ウイリアム・リュプチャンスキー)も勝負に加わっている(カメラマンは画家と同族ですから)と言えるかと思います。
そしてもちろん,観客も。
戦場 戦士達
映画「1984」:最終回 - いつか来た道
サハラ砂漠において多大な戦果があったという報告がありました...
「来てくれてありがとう。」
- 皆さん,15時30分からユーレイシアとの戦争に関する重要なお知らせがありますので各自テレスクリーン前に待機してください -
「アフリカ戦線が気がかりなの?」
「戦争にはひどく心を乱されるんだ。一日中そればかり考えているよ。
もう,単にアフリカを失うかどうかの問題ではないんだ。
何か敵の裏を掻く秘策があればいいんだが。」
「見通しは暗い。僕には直勘があるんだ。きっと悪いニュースに違いない。」
そう,私も君の事全部話したよ。ソートクライムや,セックスクライムや,そのほかの君の裏切りすべてを。
「もう集会に行かなくては。」
私は多くの罪を冒したことを告白します。他の者と組んで貨幣を偽造しました...
妻をはじめとして,売春婦にも意図的に梅毒をひろめました...
しかし,今はビッグ・ブラザーの温かい指導ですっかり癒され,清められています。
- 戦況を覆すような大きな戦果が挙げられました。数百万人にも及ぶ捕虜が捉えられました。敵側に大量の脱走者が出たのです!
ウィンストン・スミスはビッグ・ブラザーの慈悲深い顔をじっと見入った。ウィンストン・スミスの目には自然に涙がこみ上げて来た。



映画「1984」:(12) 101号室
あれからどれだけ時間が経ったのか...
突然テレスクリーンから女の命令する声がした。
「6079,スミス,目を開けなさい!」
そして,鎖をガチャガチャ引きずる音がしたと思うとドアから放り出されてきたのはパーソンだった。

「俺から離れていてくれ,スミス。俺はゴールドステインのスパイなんだ。自分でも知らなかった。ソートクライムというのは実に油断のならないものだ。気づかないうちに忍び寄る。」
パーソンは泣いていた。
「娘がそれに気付いた。私は本当に娘を誇りに思うよ。手遅れにならないうちに見つけてくれて本当に感謝している。」
俺は銃殺されないよな,スミス?自分は強制労働でも立派に役立つ筈だから...
疲れ果てて眠り込んだスミスに,テレスクリーンからまた呼び出しがあった。
「Room 101」
「嫌だ,お願いだ,もうそこに連れて行かないでくれ。なぜだ,もう告白することは何もないはずだ。私に何を学習させたいんだ?
代わりに,こいつを連れて行ってくれ。彼こそがソートクリミナルだ。自覚しているソートクリミナルなんだ。」
しかし,パーソンは終に諦めて自らドアの方に歩いていった...
また長い時間が経って,同じドアから今度は オブライエンが憲兵を従えて出てきた。
「あたなも捕らえられたのですか?」
「私はずっと前に捕らえられていたのだ。」
「ウィンストン,こうなることは前から知っていたはずだ。自分を欺いてはいけない。」
オブライエンが目配せすると,憲兵は警棒でスミスの腕を殴りつけた。床に倒れこんだスミスに,オブライエンは言う。
「お前と女の写真はプロレタリアの教育用ポルノとして使わせて貰う。」



君はここが何処か分かるかい? 「分かりません。でもおよその見当はつきます。愛情省の中です。」
君は何故ここにいるか分かるかい?その理由を教えてあげよう。君を治療するためだ。
ご覧のとおりダイヤルの目盛りは100まである。
これからの質問中には絶対に忘れないように,私はいつでも,好きなだけ数値を上げて苦痛を大きくできる,ということを。
では,始めよう。君は何が問題になっているのか,完全に理解しているな。
君は意識に反する知識と長い間戦ってきた。それが精神を蝕んでいるんだ。
君は誤った記憶に悩まされている。
それはちょっとした意志の力だ,君が今までに試したことのない。
例えば,今オセアニアが戦っている国はどこだと思う?
「イーストエイジア。」
じゃあ,オセアニアは昔からイーストエイジアと戦っているのか
「分からない。逮捕される数日前まではユーレイシアと戦っていた。」
重大な錯誤だ。じゃあ, この写真の人物はだれだか分かるか?これらはかつて実在したことのない者達だ。
「彼らは実在した。私の記憶の中に。私は憶えている。あんただって憶えている筈だ。」
「私は憶えていない。訓練した精神だけが真実を見ることができるのだ。自己破壊の必要が生じたなら,意志の力でそれをやり遂げるんだ。君は何を日記に書いたか憶えているかね。
『自由とは2足す2が4であると言える自由のことだ』と書かなかったかね?
じゃあ,私は何本指を折っている? 「4本です。」
もし党が5本だと言ったら,何本になる? 「5本です。」
だめだ。嘘をついている。嘘をついても何の役にも立たない。もう一度。これは何本だ?
「4本です。他にどう言えばいいのですか。5本と言ってほしいなら,5本です。」
「どうかもう,この苦痛を取り除いてください。」
「じゃ,どんな風にしたら君の苦痛を取り除いてやれるだろうか。」
「私が目の前にしているものを理解するにはどうしたらいいのでしょうか。」
「2足す2は4だよ。しかし,時にはね,ウィンストン,それは5にもなるし,3にもなる。突然全てにもなる。
過去も,現在も,将来もそれ自体の正しさで存在できるものではないのだ。
真実は全体的な精神の中にあるのであって,個人の心の中ではない。
個人の記憶など誤り易いもので,早晩消えていくものだ。
党の精神の中に残ったものだけが,全体となり,永遠に不滅となる。
「もう一度。」
オブライエンはダイヤルの目盛りをさらに上げた...
「嫌だあ~!」
「4本。4本だと思います。
5本に見えるよう努力します。そうできるといいのですが。どっちをお望みですか?」
「それは君が5本に見えていると私に納得させるためかね?それとも本当にそう見たいからかね?」
「本当にそう見たいためです。」
「分かりません。」
ウィンストン,誰も逃れることはできない。この世界には殉教者はいないのだよ。
ここで為された告白はすべて真実だ。
我々は,我々に抵抗するからという理由では異端者を滅ぼさない。
抵抗を続けている限り,彼らを滅ぼすことはない。
我々の仲間にしてから殺すのだ。頭脳を完全にしてから吹き飛ばすのだ。
そしてビッグブラザーの慈悲と愛の他は,何も残るものがなくなった時に,
君を清浄の高みまで引き上げて,歴史から消し去る。
君という存在は一切消滅する。戸籍上の名前も,脳の中の記憶も。
君は過去にも,現在にも,未来にも存在しなくなる。
3000にセットしろ。今度は苦痛はないよ。この作業を終える前に,君に幾つか質問したい。君の心をきれいにしたいんだ。

彼女は君を裏切ったよ。即座に,何の留保もなく。
彼女の反抗心,欺瞞性,愚かさ,そして穢れもすべて払拭された。
「ビッグ・ブラザーは実在するのか?」
「もちろんだ。」
「私と同じように?」
「君は存在していない。君はその質問を私にした事がなかったな。それが君の心の中で一番重要な位置を占めるのか?」
やれ!
ウィルソンの脳に特殊な電流が流された...


オセアニアが今戦争している国はどこかね?
憶えていません。
オセアニアは今イーストエイジアと戦争しているんだよ。
今度は思い出せたかい?
「5本です。」
これで分かっただろう。それが唯一の正解なんだ。
これで君は過去の真実と,現在の真実を理解できた。今度は未来の真実についてだ。
人が他人に力を及ぼす方法とは何かね?
「その人間を痛めつけることです。」
そうだ,力は人間の心を引き裂く。過去が禁じられているのは何故か分かるか?
それは過去を断ち切ることによって,家族を含めたあらゆる人間関係を破壊するためだ。個人などというものは1つの細胞に過ぎない。唯一の存在は「全体」だ。
「あなたは間違っている。あなたはきっといつかしくじる。」 何故だ?我々は人間すらも創り出せるんだよ。
「遅かれ早かれ,レジスタンスに打ち負かされるに決まってる。」
誰が言ったね? 「ゴールドスタインの本に書いてあった。」
あれは私が書いたものだ。何事もそれ自体の目的としては存在していないのだ。
「でも,きっと負ける。人間の心というものに打ち負かされる。」
そう思うかね。君は人間なのかね?すると,最後の人間ということになるね。
「あんたがやったんじゃないか。」
ちがう,自分で堕ちたんだ。
「いつ銃殺してくれるんだ?」 まだまだ長い時間がかかる。そして最後に...
万有引力の法則などナンセンスだ。私は,君が浮かんでいると言えば浮かんでいると信じるし,沈んでいると言えば沈んでいると信じる。なぜなら,君が「党」だからだ。
「オブライエンさん,私はあなたを愛している。」
「私も貴方を愛しているわ。」
今の君の気持ちを正直に言ってもらおう。
「私はビッグブラザーを憎んでいます。」
101号室に連れて行け。
分かるかね,ここは最悪の場所だ。
個々の「人間」にとって最も触れてもらいたくない部分を矯正するための。
こいつらは,邪な心や病気や持った者,死にかけている者を本能的に見分けて,あるものは喉笛に,あるものは目に,という風に真っ先に齧りつく。一気に骨まで行くのもいるよ。

「私じゃない~」





















































































































