さらば愛しき女よ(10)
逆光の中に立っていたグレイル夫人が階段をゆっくり降りてきた..
そしてマーロウを応接間に案内する。
-女の髪は泰西名画の中に出てくる金色をしていた。彼女は女性が持つ抗いがたい優美な曲線をことごとく備え,私は後ろのポケットが自然に引っ張られてしまうのを感じた -
そしてその場を取り仕切った。
「貴方は想像していたのとは違う」
「どんな風に?」
「リンゼイに最後に会ったと言うから,友達だと思っていたわ。言っている意味がわかるでしょ?」
「彼は私に組まないかと言ってきたんだ。友達の所から盗まれたフェイ・ツイ翡翠を取り戻すためにね。」
執事が酒を出すとグレイル夫人はすかさず言う:「ご苦労様ネルソン,もう下がっていいわ。」
マーロウは傍らに立っているグレイル元判事に話しかける。
「私は私立探偵です。グレイルさんはフェイ・ツイ翡翠の収集家だと伺っておりますが。」
「確かに収集しているが,今まで何か盗まれことはないよ。」
「いえ,友人はご婦人から盗まれたと言っていました。」
「彼は何を考えていたんだろう。」
「私たちが持っているネックレスは1つだけだわ。」
「値段が付けられないくらいの?」
「そうよ。(そして夫の方を向いて)あなた,あなたを煩わせるような話じゃなさそうね。もうお休みになったら?」
「そうか,では少し横になってくることにするよ。」
グレイル氏がドアの向こうに消えるとすぐに夫人が言った。
「うちのグレイルは直ぐ疲れてしまうのよ。あたしも飲みたくなってきたわ。」
「マリオットは友達だったのか?」
「そんなようなものね。いつもお供をする。」
「彼は私の稼業にもっと貢献してくれるはずだった。」
「あなたは,探偵にしては随分いい男じゃない?」
「それは私に向けられた言葉じゃないようだが?」
「まあ,可哀相なリン,彼はむしろ悪役ってわけね。でもあんな死にかたをするなんて。」
「彼を信じていた?」
「信じる?もちろんよ。」
もちろん貴方もね。なぜこっちに来て隣に座らないの?」
「さっきからずっとそれを考えていた。君が最初に脚を組んだときから。」
「この翡翠が貴方の首に巻きつきそうで嫌だわ。」
挑戦的にマーロウを見つめる…
「こんなこと,いつもしてるの?」
「いや,いつも忙しいから。いつも仲間の修道僧とお祈りばかりしてるさ。」
「まあ,単にヒマなだけでしょ?」
「そうよ。彼を好きだったわ。彼を殺した奴を探して頂戴。お礼はたっぷりするわ。」
「たっぷり?」
「そうよ。」
「マリオットは君に沢山の借金をしてたわけじゃあるまい?」
「まあ,貴方の考えって古いのね?貴方の名前はフィルね?」
「私の名前はフィリップだ。君のは?」
「ヘレン。キスして頂戴。」
哀れなグレイル氏が間違って戸をあけ,二人が抱き合っているのを見てからまたドアの向こうに消えた…
「誰だったの?」
「グレイルさんだ。」
「忘れましょう。」
「努力するよ。」
「彼は情けないことに,直ぐ疲れてしまうのよ。」
「君はこの町での彼の力がどれ程のものか知らないのかい?その種の力は車椅子に乗っていたって揮えるんだぜ。」
「何処に連絡すればいい?」
「電話帳に載っている。」
「何か具合悪いことでもあるの?」
「何もないさ。」
「まあ,なんて古臭いこと。」
「腰から上はね。」(続く)







