さらば愛しき女よ(7)
新たな依頼:翡翠のネックレス
私は2日で仕事を片付けた。ディマジオは連続ヒット試合を33試合に伸ばし,新記録まであと9試合となっていーた…
「ジョージー,5ドルはもう俺のもんだな。」
「いや,まだ9試合残っている。勝ち続けるのは容易じゃないぜ。ところでヒットラーって奴は何者なんだ?ロシアに侵入したらしいぜ。」
「そんなことはもうナポレオンが先にやってるよ。そんなのより42試合連続勝つことのほうが大変さ。」
-仕事がまたヒマになる予感がした。銀行の残高も底をついて来た-
しかし,事務所に帰ってみると,新しい仕事の匂いがした。香水の匂いをさせたしゃれ男がドアの前に座っていたからだ。
「私立探偵のフィリップ・マーロウさん?推薦を受けたもので。」
「そうです。どうぞお入りください。」
リンゼー・マリオットと名乗る依頼人は「口が堅いか?」と念を押した上で,マーロウに拳銃を持っているかと訪ねる。大金を運ぶので護衛をして欲しいというのだ。
「推薦人の名前は?」
「明かすわけにはいかない。名前は電話帳で見つけた。マーロウという名前が気に入ったから…」(注1)
「Fei Tsui(フェイ・ツイ)翡翠というのを聞いたことがあるかね?知り合いのご婦人の所から盗まれた。それを買い戻すんだ。」
仕事に異存はない。段取りを決めるとマーロウは部屋を出て行く依頼人がサインボールを持って行きそうになったので,あわてて声をかける。
「あんたの名前も気に入ったよ。」
気がついてボールを戻したマリオットが部屋を出て行くのとすれ違いに刑事たちが入ってきた。
「フラワー・ショウをやっていたみたいだな,マーロウ。水仙お買い上げのお客様がお帰りになったってわけだ。」
「なに,あんた達が来て臭くなりそうなので香水を撒いといたのさ。」
「呼び出せばマロイが出頭すると行ったじゃないか。どうして来ないんだ。」
「この男(部長刑事の部下の刑事)が気に障る。あんた1人になら話す。」
部下の刑事は気色ばんだ。
「お前に侮辱される覚えは無いぞ。」
部長が「頼むからとにかく外に出ていてくれ」と部屋の外に押し出した部下の刑事の背中にマーロウが追い討ちをかける:
「ドア・ノブを盗んで行くなよ。」
「マロイを出頭させなきゃならん。2階の連中(警察上層部のこと)がヤキモキしてるんだ。」
「させないと言ったらどうなる?お前さんの新しい背広が取り上げられてしまう,とでも言うのか?」
「大きなお世話だ。」
「キング・コング以来,俺は恋するゴリラの強い味方になったのさ。」
「お前は協力すると約束したじゃないか。」
「協力するって何を?黒人の死体が1つできただけじゃないか。だれがそんなこと構うか?誰がマロイを殺そうとしたんだ?」
「今調査中だ。」
「誰が責任を取るんだ?ビリー・ロルフか?」
「そりゃ,どういう意味だ?」
「あの刑務所返りが黒人を1人殺した。正当防衛だ。それでカタが着いたんじゃなかったのか。それが突然逮捕するなんて言い出して。俺の立場にもなってくれよ。」
「我々は警察,お前は一介の私立探偵だ。免許を取り下げることもできるんだぞ。」
「指に紐で縛り付けておくさ。」
「わかった。あとで必ず連絡しろ。」
「ムース,気の毒だ。彼女は出て来れないんだ。カマリロ精神病院にいる。」
「嘘付け」
「そうだと良いんだが。」
「だれか人違いじゃないのか?」
マーロウが写真を見せると,マロイは一目見て写真を破り捨てこう言った。
「俺はヴェルマを探してくれと頼んだんだ。こんなゴミみたいなもの出しやがって。」
「なぜだ。これはヴェルマじゃないのか?何かの間違い…」
マロイは腹を立てたまま中華料理屋を出て行った(続く)。
