さらば愛しき女よ(1)
ヘッドライトがゆっくり走る夜のゴールデン・ゲート・ブリッジ,そしてサンフランシスコの街並み。画面が下町の一角へと移ると,トロンボーンが奏でる気だるいメロディーをバックに,咥え煙草の男が安ホテルの窓から外を眺めている…
- 過ぎ去った今年の春は,私が初めて疲労を感じ,自分が年を取ったことに気づいた季節だった。
これは恐らくこれまでなかったような湿めついた天気のせいか,あるいは自分が関わった人を腐らせるような事件のせいだったのだろう。私のやった仕事と言えば,行方をくらました数人の夫を捜し出したり,いったんは見つけ出された数人の妻たちの行方をまた捜すことだった。しかしその支払いもとうに済んでいた。
あるいは単純な事実として,私が疲れ,年を取ったということかも知れない。
私の唯一の楽しみは,ニューヨーク・ヤンキースのジョー・ディマジオが特急列車の如く快進撃するのを追い続けることだった。
そして今はもう六月の半ばで,物事は春よりもいっそう悪い方に向かっていた -
注1:ジョー・ディマジオは最初3A球団のサンフランシスコ・シールズからプレイヤーとしての経歴をスタートさせた。ここで61試合連続ヒットという記録を達成したディマジオがベーブルース無きあとのニューヨーク・ヤンキースと契約を交わしたのが1936年で当時まだ26歳の若さだった。この年,1941年,56試合連続ヒットという不滅の記録をうち建てた。
注2:ヒトラーは既にポーランドからソ連へと侵攻しており,日米の関係もすでに引き返せない所まで来ていた。当時の合衆国大統領はフランクリン・デラノ・ルーズベルトである。ルーズベルトが日本への宣戦布告書に署名したのは1942年,この翌年になる。