ロバート・ミッチャムのフィリップ・マーロウ:「さらば愛しき女よ」 | 映画探偵室

ロバート・ミッチャムのフィリップ・マーロウ:「さらば愛しき女よ」

-ロスト・ジェネレーションと運命の女

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 道徳的なものしか見えない人や,あるいは,これまで順風満帆の人生を歩んで来て挫折など一回も経験したことのない,それが当たり前と思っているような人は,この映画の「視線」が分からないだろう。世界にはあまねく陽が当たっているなどとお目出度くも考えていたり,自分は陽の当たる側に常にいると考えている人には,ハード・ボイルドなど無縁に違いない。既にすべてを失っているのに,尚この汚れた(よごれた)世界で何かを追い求めるような大人でなければ,ハード・ボイルドは語れない。ハード・ボイルドはフィッツジェラルド,ヘミングウェイ,ダシル・ハメット,そしてレイモンド・チャンドラーに代表されるロスト・ジェネレーションの文学である。

他人の恥部を取り繕ったり,時には加担したりして金を得ている探偵稼業を続けてもう随分なる。背広はくたびれ,ワイシャツの襟も汚れてはいるが,しかしまだトレンチ・コートを着崩さず,きちんと帽子も被る…男の矜持。

このような役を演ずる俳優としてロバート・ミッチャムほど相応しい男はいなかった。読者の中にはハンフリー・ボガートのフィリップ・マーロウを好む方々もいるとは思うが,ワタシにはロバート・ミッチャムの方が断然,自然体に見える。演技をしているのではない,本当のロバート・ミッチャムの意地が見えるような気がする。


 この映画のキーになるのは,そのような探偵が追い求める2つの夢,対照的な2つの面影である。1つは運命の女,そしてもう1つは陽の当たる場所にいて奇跡を成し遂げつつある「男の中の男」,ジョー・ディマジオだ。映画は探偵のモノローグから始まる(乞うご期待)。