満月のスープ 20190525 家族の別れ    | 風のたまごを見つけた   

風のたまごを見つけた   

for pilgrims on this planet.
この惑星はなんて不思議!

キラキラ

 

『満月のスープ』の読者のみなさま、お待たせしました。

前回は急遽【特別編】となり、6日遅れの本編となりました。

相変わらず長めですが、どうしても分けて掲載したくなく(笑)

読んでもらえるかしらん!

キラキラ

 

それにしても夏日ですが、みなさまは、どんな週末でしょう。

今日のさくらまは、

急に、お気に入りのケープコッドの夕景が見たくなり!

思い切って、夕方から初めての、突然ディズニーシーに挑戦シマス♡

 

超方向オンチだが、、だいじょぶか?ワタシ。

 

どきどき。

 

 

 

 

 

voices from Fullmoon of May

 

 

 

帰りたいという
 

あなたの声が
聞こえます。


 

あなたが灯す
やさしい
白檀の香りも


 

激しいまでの
その祈りも

 

届いています

 

けれど、わたしは
沈黙します。


 

なぜなら、わたしは
あなたが帰る場所では
ないのだから。


 

何を探していますか?
魂の安らぎですか?
あなたの魂ではないのですか?


 

わたしはあなたの
答えでしょうか。

 

 

いいえ、

 

わたしは

あなたを敬い、見つめる
光です。


 

そうして、驚いたように

周りを見渡している
あなたを。


 

あなたは、もう
目醒めているのではないですか?


 

帰る場所は
あなたがそこに、今いる
そのあなた自身なのだと


 

はじめから
探すものなど、なかったのだと。


 

もう、だれか他人のために
愚かな自分を
演じないで下さい。


 

探求よりも
生きるときです。


 

希望と喜びを持って
 

あなた、という故郷を照らす幸福に
わたしを、浸らせてください。


 

あなただけの、唯一の
その星の光を信じて


 

ありのまま、正直に、
その荘厳さで
輝いてください。


 

いつも、どこでも。

 

いま
この瞬間も。

 



 

 

 

おばあちゃんの家のキッチンは

土間にあった。 

窓から満月が見える

小さな台所に今も香る

幾種ものハーブとお茶の香り

満月の日は

ここに来てお湯をわかし

こころを開いて

なくなったおばあちゃんの

光のスープを 

静かに、飲んでみるのです。

 

レイラ

 

 


 

満月のスープ 第二章  4

 

家族の別れ  for independence
 

 

砂漠の夢を見た。

 

砂に足をとられて歩くうちに、ふと
これは夢なのだと気づいて、なぜか

軽やかに歩き始める。

 

どこまでも続くサンドベージュの丘陵に
一点、血のように鮮やかな色が見える。
レイラは砂を蹴って走った。

その場所にたどり着いて、光る
マゼンダ色を掘り出したら、
花びらをほころばせた、大きな薔薇だった。
 

やわらかな薔薇の花弁を両手で包むと
レイラは深く呼吸した。
花びらの螺旋に溶けてしまうように。

 

空を見上げると、果てしなく高い天空が
無限の両腕で、レイラを包み込む。
レイラは、心からほっとした。
どこまでも、どこまでも、
ほっとした。

 




目覚めたら、いつもの天井が見えて
胸にちくんと痛みが戻ってきた。
ぼんやり頭で起きあがり、
何だったっけ、とレイラは思った。
昨日、何か心が痛くなることがあったんだ。

パジャマを脱ごうとして、突然思い出した。
「そうだ。父さんと母さん、別れることになったんだ」
そうだった、、とつぶやきながら、
レイラはミルク色のボタンをひとつづつはずした。

デニムに着替えて、カーテンを開けると、
日曜の朝日がまぶしかった。
いつもと違う顔でレイラを見た、昨日の父さんと母さん。

だいぶ応えてたみたいだ。。



 

自分たちの間では少し前に、話し合いがついていた。
けれど、亡くなったおばあちゃんの家に入りびたる
レイラの不安定な気持ちに配慮して、時機をはかり
今なら現実に向き合えるんじゃないかと思った。
父さんの前置きを要約すると、そんな感じだ。

レイラはもう、何となくわかってたのに。

 

自分を閉ざさなくなった最近のレイラの変化を
父さんは、「おとなになった」と、表現した。
おとななんかじゃない。
なりたくもない。
一瞬、レイラが、ムっとしたら、
父さんは、ちょっと切ない顔になった。
 

公務の職務癖なのか父さんの言葉は、いつも素っ気ない。
けれど理屈できちんと折り合いをつけるのが父さんの優しさだ。

この家には母さんが残り、父さんはこれからも親としてレイラを
応援し続けること。今すぐ家を離れるわけではないし、
別居後もいつでも何でも相談していいこと。
時々は食事もするし、もし父さんと暮らしたければ
レイラの気持ち次第でそうすることもできること。
父さんが、とてもゆっくりと、正確にいろんなことを説明する間
母さんは、見たことないくらい真っ赤に泣きはらした目で
レイラを見ていた。

そっちの方がレイラは辛いよ、母さん。

レイラは、すごく冷静に話を聞いていた。
なぜか、父さんが食卓で呟いたおやじギャクや、

それをさげずむ母さんとレイラの高笑いや、
どうでもいいことばかりが浮かんできた。

「レイラは大丈夫だよ」
そう、よくあることだし、家族がなくなるわけじゃない。
みんな自分の人生がある。レイラも自分の人生を生きる。
それだけのこと。
これは自分が、ベンみたいに強くなるきっかけだ、
と言い聞かせた。背骨がじんじんした。

日曜の朝は、父さんが、ごりごりコーヒー豆を挽く。
今日はもう、出来上がったコーヒーがポットにあって
いつもの香りがしなかった。父さんは早くに出かけていた。
母さんは、いたたまれなさそうに
「あなたと顔合わせづらいのよ。あの人らしい」
と言って、ため息をついたが、トントンと野菜を切る音は
リズミカルで力強かった。レイラはその音にほっとした。



 

 

時間は、理解の奥ゆきを広げる。
一週間経つと、レイラの頭の中で物事が、
少しづつ整理されていった。
 

おばちゃんの家で、デッサンをしながら、
ふと、レイラは気づいた。
つい母さんのことばかり気にかけてしまうけど
もしかすると、父さんはレイラに
自分と暮らしたいと言ってほしいのかもしれない。
本当のさみしがりは、父さんかもしれない。

父さんに遊んでもらった記憶は、あまりない。
でも一度だけ、プール連れて行ってもらったことがあった。
父さんは全く泳げないのに、レイラが泳ぎ疲れるまで
何時間もずっと待っていた。帰り道、
通り沿いの店で、パンダの顔の菓子パンを買ってくれて
歩きながら、一緒に頬張った。
食が細かったレイラが、初めてパンを完食して
父さんがとても嬉しそうな顔をしたのが意外だった。
「おいしかった」と呟くと
父さんは、そうか、そうかと笑った。

あのパンダパンは今も売っているんだろうか、と
無益な思いが脳内を巡る。

レイラは記憶って何なの、と呟いた。
どうして、意味のない一瞬が唐突に再生されるんだろう。
フラッシュバックした場面が感情を揺さぶって、
時間を盗んでゆく。



レイラは鉛筆を置いた。

切り替え、切り替え、と、
左右に頭を振って伸びをしたら、
庭の小鳥が、チュンチュン鳴いて、
ききっと自転車の止まる音がした。

ベンだとに気づいて、レイラは外に出た。
カフェに持って行くジャムの材料を
バイト先で調達してくれることになっていた。

ベンは自転車のフレームに直接くくりつけた
赤いルバーブの束を、レイラに手渡した。
 

「ありがとう。こんなに、いいの?」
上司の人の実家で育てているのだと聞いたけど
思ったより大量だった。  
 

「いいの。山ほどあるから持ってけ、持ってけって。
なんせ俺、正社員候補だからさ、優遇されんの」
ベンは困ったように笑った。働きぶりが買われて
本気で要請されているらしい。

「ほんとはさ」
ベンは、片手で自転車を持ち上げて、移動しながら言った。
「食いもんっていうよりも、絵でしょーよ。
構図は?決まった?」
レイラは、ううん、と首を振った。

まじか~と、ベンは空を仰いで、がしゃ、と自転車を降ろした。


 

土間のキッチンはまだちょっと底冷えがした。
ベンがルバーブを洗う間に、レイラは鍋を出して
大量の砂糖をボウルに入れた。
父さんと母さんのことは、さりげなく伝えてあったけど
ベンは何も聞かないで、ルバーブをざくざく刻んだ。

「練習とか、いいの?」
「いいの」
「バイトは?」
「今日はなし」
ベンは、ときどきルバーブの切れ端を口に入れて、
すっぱぁ、と、のけぞった。
そのたびに、不思議にレイラの気持ちは和らいだ。

砂糖漬けすると、大量のルバーブが
艶めいて
「料理って、リアルに魔法だよな」
と、ベンが鍋をのぞきこんだ。
 

こういう時のベンの素直な横顔は、

おばあちゃんの料理をじっと見つめていた

小さい頃と変わらない。
性格は全然変わったのに。。
レイラは?レイラはどう見えるだろう。

ベンは今のレイラを変わったと思っているだろうか。



ルバーブに砂糖をまぶしたまま
ベンとレイラは土間から庭に出た。

 

主がいなくなってしまった庭は、やっぱり以前より荒れた。
けれど春の真新しい緑は、いのちが脈々と続いていることを
教えてくれる。

モーツアルトの名前がついた、おばあちゃんお気に入りの

ローズマリーも、知らぬ間に濃い紫色の花をつけた。

 



 

晴れたペールブルーの空だった。
イチイの樹の下が、ちょうどいい木陰になっていて
二人は自然に、そこに腰を下ろした。

ベンは、デニムのポケットからスマホを取り出し、
新曲をアップしたのだ、と音楽サイト開いて
レイラに見せた。

「動画も、第二弾やるんだ。
今度はオリジナル入れて。曲もだいぶたまったし」

ベンは会う度に、何かしら新しいことに挑んでいる。
そして、それを着実に形にする。

「すごいじゃん、、」

クリックすれば、音源が聞けるよ、と
ベンは、レイラにアクセス方法を教えたけれど
 

「うん、、、」
と言ったきり、レイラはスマホに視線を向けなかった。

ベンは、構わずレイラに話した。

ちゃんとした人に音楽を聴いてもらいたいこと、
演奏させてもらえるハコを探して、

バンドとしてライブもやってみたいこと。

「来週、CD焼くの。結構安く出来るんだ」

へんだった。
いつもなら素直に聞けるのに、
今日のレイラは、ベンの話にうなずけない。
 

右手に触れた雑草を、
レイラは、ぶちっと引き抜いた。

「なんでだろ、、
思ったことをどんどん実現しちゃう子と
そうできない子がいるのかな」

え?と、ベンは意外な顔で、レイラを見た。
 

「レイラだって、、」

と言うベンをレイラは遮った。

「レイラなんか、レイラなんか、、

オファーしてもらっても、何にも
決まらない。どっかでまだ
うじうじ迷ってるよ。
ベンには仲間もできたのに、
レイラなんか、出会ったのは
いじめてくる子だよ」

どんどん雑草をちぎりながら、

レイラは続けた。


「いつかベンは、レイラには
家族がいるし、自分にないものを
普通に持ってて、
羨ましいっていったよね。
今もそう思う?もう何もないよ。
おかしいでしょ、
ほんとは笑ってる?笑うよね」

そこまで吐きだして、
レイラは、はっとした。


 

「羨ましいとは、思ってない」
 

ベンはきっぱり言って、

少し黙った。
 

「今は、誰も羨ましいなんて
思わない。

そんなこと思ってる余裕ない」

そう言って、スマホをポケットにしまうと
ドサっと仰向けに寝そべって空を見た。


そうだ。ベンはアルバイトをして
一人で暮らしてる。生活だってレイラには
想像できないくらい大変で、
何とか夢の時間をやりくりしてるんだ。

 

自分が激しくかっこ悪い。。

 

「サイテー。ごめん」と
レイラが小さく謝ると、
ベンはがばっと起き上がり、


「俺、誰からも謝られたくないんだ。
レイラ、ほんとに最低だって思ったろ」

と、逆に突っ込んだ。

「レイラは、いい子ちゃんやりすぎ。
俺なんか、もう、
真っ黒い怨念持ちまくって、
世界中が敵だったもん」

ベンは、ひどく明るくにそんなことを言う。

「ネガティブだったろ、暗いだろ。
誰も信じないだろ、ダメで

サイテーだろ。でも結構!
俺は絶望と、自己嫌悪の
ど真ん中に突っ込んだもんね。
まっ暗闇を突き抜けられるのが、
俺ら魔法使いの特権じゃん!」

そう言って、ベンは立ち上がり
座っているレイラを、王様みたいに見おろした。

「魔法使い?」

レイラが聞き返すと、

ベンは、ふん、とうなずいて
キッチンに戻ろうと、レイラを促した。
 

 

水の出たルバーブを火に掛けて、
ベンがスプーンで、灰汁を取り続ける。

 

ベンが、味見するみたいに

その灰汁をペロっとなめたので

「げ」

とレイラは手を止めた。

ベンは、素知らぬ顔で


「キレイはキタナイ」
 

と、レイラの横で歌いながら、

蛇口をひねり

 

「キタナイはキレイ」

と、レイラの横で続けた。
 

「あ、それ何だっけ。
知ってる。三人の魔女?」

「おう、読んだ?

シャークスピアせんせー。

人生、ビビディ
バビディデブーよ」

 

ベンは洗ったスプーンを

指でクルンと回して言った。

 

 

 

大きな鍋を混ぜながら、
レイラは、血みたいに赤いルバーブに

引き込まれそうになった。

ほんとに魔法のスープだったらいいのに。

ほんとに、レイラを一瞬で、

パワフルで賢い女の人に変えてくれたらいいのに。


「なんか、願かける?」
と、レイラが冗談めかすと、

ベンは間髪入れずに、
最高にクールなCDアンド、

ライブを決める!と
呪文みたいに低い声で唱えて、
「ほい、レイラは?」とふった。
 

壁絵の成功を願おうとした。
なのになぜか、両親の顔が浮かんだ。
しかも、それは

赤ちゃんのレイラをのぞき込む
希望いっぱいの目をした二人だった。

 

レイラは沈黙した。

「親のこと?」
ベンの直観に、レイラは頷いた。
「仲直りしてほしい?」
 

微妙に違う、そこじゃない、とレイラは思った。
両親の離婚が悲しいんじゃない。
子どもっぽい寂しさでもない。

そう、父さんも母さんも
ほんとはとても深くつながってる。
ちっちゃい頃から、なぜかレイラは
それがわかってて、自分が
父さんと母さんを助けたかった。
 

居場所がなくても

そのために、そこに居ようと思った。

ずっとずっと。。でも、
結局できなかった。
とても大切な人たちに
レイラは魔法を使えなかった。

 



 

ベンは返事をしないレイラに

「俺、やばいこと聞いた?」
と気遣った。
レイラは何も言葉にできない。

ただ、ルバーブを混ぜて
あまい香りだけが漂った。

 

ベンがすっとそばを離れたので、
沈黙が気まづいのかとレイラは思ったが

ベンは、土間の隅に何かを見つけて
取りにいったのだった。

 

小さな塊をそっとをつまみあげ、
手のひらに乗せて、ながめると、
「珍しいね」
と、レイラに差し出した。

それは、カタツムリの殻だった。


 

とても小さくて、
けれど、神さまみたいに完璧で、きれいな渦巻きが
ベンの、やわらかな手のひらにのっている。
あの日の天使だ。

レイラは急に、抑えきれなくなって、

混ぜていた木べらから、手を離し、
両手を目の下に添えて泣き出した。

 

ええーん、と、まるで子どもみたいな泣き声が

土間に響き渡る。

 

「えー?なんで。嫌い?カタツムリ」

ベンは動揺しながら、
片方の手で、あわてて火を止めた。
 

レイラは、しゃくり上げながら

違う、違うと首を振った。

 

両親が諍うとき、それが自分せいのようで苦しかったこと。
やり場のない自分の孤独と罪悪観を、

カタツムリが天使のように救ってくれたこと。

恥ずかしいけど、あの日の気持ちを

今度は何とか言葉にした。

 

嗚咽混じりのレイラの話に

聞き入っているのに、ベンは

一度も相づちを打たなかった。

 

開けていたキッチン窓から

ベンとレイラに風が吹き込んで

カタツムリの殻をさらった。


ころころと土間の床を転がる殻を拾おうと

レイラは泣きながら、手をのばした。
 

「拾うな、レイラ」

ベンがそう言って、レイラの肩を掴んだ。


「自分のせいって何だよ。レイラの世界はどこよ」
 

それまでの軽い口調のベンとは別人みたいだった。

レイラはびっくりして、身体がかたまった。
 

「レイラの魔法を、大人のために
使わなくていい。親の世界なんて放っとけ!」

 

滲んだ視界に、炎みたいにゆらめく

ベンのオーラが見えた。

レイラは泣き止んだ。

 

「俺らは自分で世界、変えられるじゃん。

誰かのお姫様なんて返上しろよ。もう、だせーよ、

魔法使いだろ、レイラは。自分で扉を開けるんだろ」

 

土間の空気が一気に濃密になって

真っ赤なルバーブが

濡れたルビーみたいに光っていた。

 

【続く】

 

宝石緑これまでのお話は右のテーマ欄からお読みいただけます。

第一章は「【物語】満月のスープ」から、第二章は

「【物語】満月のスープ 第二章」をお選び下さい。

 

 

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