口をあんぐりさせて顔を見合わせ、二人の口から同時に出た言葉は



「先生…」






先生…

二軒隣の美容室の先生。

開店当初から来ていて、職人ぽい厳しい顔つきから取っ付きにくく、職業柄か接客や店の品揃えなどにも厳しく、よく注意もされた。


ただ注意だけする人なら嫌になるけど、毎日来るうちに私や嫁の身体の心配をしてくれたり、街や店の話をするようになり親しくなっていった。


彼が私達に注意する事も、商店街や街や私達の事を思って、教えてくれてるんだなって感じて行くようになっていた。


そして開店から数年後、契約時に入籍していなかった私達が神社で式を挙げるとき、髪結いや着付けの為に彼と彼の奥さんに同行をお願いした。


儲かってない私達を気遣い、安い料金と言うか気持ちで良いよって引き受けてくれた。


式の前や式の日もよくしてくれたし、一日中一緒に居たその日以来、以前より親しくなり家族のようにお互い何でも話せるようになって行った。


地元ではない場所で商売をしていたから、自分の気持ち的にも周りの空気からもよそ者感が強かったから、上っ面の付き合いじゃなく腹を割って話ができる数少ないご近所さんになっていた。



私も嫁もこの街での父のように思っていた…




そんな先生がまさか私達のミスでカウンターに置き去りにされた印紙を盗って行くとは…







なんの加工も無く写っているはずのビデオ。

だが、写されたその状況を私も嫁も信じられず、何度も何度も見返す。



何度見ようが状況は変わらないが、間違えであって欲しいと何回も何回も同じ場面を見た。
歴史物を書き終える前に終わりました。



すべてが。



30日の晩9時から雪掻きを1時間半して、着替えて一服して出ようとしたらまた積もって…



やっと店について…



あれから約40時間。



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ちょっと休ませて。。。
夜、店に行くと、おかしいのよねってブツブツ言いながら、あっちに行ったりこっちに来たり。



何かあった?って聞こうとしたら、聞く前に店長は



「印紙が足りないの。在庫が置いてあるところにもっとあるはずなのに…無いの…」



は?



『どれだけ?』



「今日買ってきた3万円分。ここに買ってきた時の紙(売り渡し時に発行してくれる納品書のようなもの)あるし、バッグには残ってないし昼の社員に渡したはずなんだけどなぁ…」



『家に持って帰ってない?それで自分のバッグに入っているとか?』



嫁はその日、仕事帰りではなく仕事中に印紙を買いに行ったそう。






じゃ、店員に渡したけど誤って捨てたとか?



「それはないでしょう?」



そう思いたいがあのおっちょこちょいの社員。
そんなことがあっても不思議はない。



幸いにもゴミ収集が来てないから私だけでゴミを別の袋に移し変えながら捜す。


嫁もすぐに手伝ってくれたが無く、もう一度レジ周辺を探したがやっぱりなかった。






疑っちゃいけないが、信じなきゃいけないが、万が一にも内引きされていたら…詐欺にあっていたら…



ビデオを嫁が印紙を買って帰って来た所から再生して見た…



原因はすぐに解った。










そのシーンを見た瞬間、


二人で目を見合わせて、


口あんぐり。


まさかまさかの身近な人が…そんな事をするとは…