40歳未満で卵巣機能が低下する状態を早発卵巣不全、POIと呼びます。今回Human Reproductionに、カナダ・オンタリオ州の約364万人の女性を対象として、POIの発症状況と関連する因子を調べた大規模な研究が報告されました。
研究期間は1995年から2019年で、168,173人がPOIと診断されています。診断時年齢の中央値は31歳でした。近年の報告ではPOIの世界的な有病率は約3.7%とされていますが、原因は遺伝、自己免疫疾患、抗がん剤や放射線治療、手術などさまざまで、医療行為によらないPOIの約70%では原因が分かっていません。
この研究でまず興味深いのは、POIの発症率が2000年代には一度低下したものの、2011年以降は再び増加していることです。Figure 2ではその変化が示されており、特に増加しているのは手術や抗がん剤治療などによらないPOIです。一方、手術によって生じるPOIは1995年の10万人年あたり約60から2019年には約20まで減少しており、卵巣をできるだけ温存する手術が広がってきたことが背景にあると考えられています。
Figure 2 POI発症率の年代別変化
今回最も注目したい結果は子宮内膜症との関係です。Table 2ではPOIと関連するさまざまな因子が比較されています。年齢を調整したPOI発症率比は、自己免疫疾患で1.19倍、染色体異常で1.50倍、喫煙または薬物使用で1.59倍、抗がん剤または放射線治療を受けたがん患者で2.01倍でした。それに対して子宮内膜症では3.45倍で、今回検討された因子の中で最も強い関連を示しました。
Table 2 POIと関連する因子
では、子宮内膜症の患者さんでPOIが多いのは、卵巣チョコレート嚢胞などに対する手術の影響なのでしょうか。今回の結果は、それだけでは説明できない可能性を示しています。Table 3を見ると、子宮内膜症を持つPOI患者のうち43.2%は手術に関連していましたが、55.8%は非医原性POIに分類されていました。つまり、子宮内膜症そのものによる卵巣への影響も考える必要があります。
Table 3 基礎疾患別にみたPOIの原因
実際、これまでの研究でも子宮内膜症、特に卵巣子宮内膜症性嚢胞がある女性ではAMHや胞状卵胞数が低いことが報告されています。子宮内膜症に伴う炎症や線維化などが卵巣予備能に影響している可能性があり、さらに卵巣手術による影響も加わると考えられます。今回の研究でも、子宮内膜症とPOIとの関係には病気そのものと治療の双方が関係している可能性が指摘されています。
Figure 3 年齢別にみたPOI発症率の推移
Figure 3ではPOIの発症率を年齢別に示しています。最も発症率が高かったのは36~39歳で、2019年には10万人年あたり802.2でした。また検査データが利用できる女性についてFSH値を用いてPOIを定義したFigure 4でも、2007年から2019年にかけて各年齢層で増加する傾向が確認されており、診療報酬データだけによる結果ではないことも確認されています。
この研究から、子宮内膜症は痛みや妊娠のしにくさだけの問題ではなく、将来の卵巣機能についても考える必要がある疾患であることが改めて分かります。ただし、この研究は診療データを用いた観察研究であり、子宮内膜症がPOIを直接引き起こすことを証明した研究ではありません。また、子宮内膜症の重症度、病変の場所、治療内容や卵巣温存手術の詳細までは解析できていません。したがって、子宮内膜症があるから将来POIになるという意味ではありません。
それでも、特に若い子宮内膜症の患者さんでは、現在の症状や妊娠だけを見るのではなく、将来の妊娠希望や卵巣予備能まで含めて長期的に考えることが大切です。卵巣子宮内膜症性嚢胞に対する手術を検討するときにも、病変を治療することと卵巣機能をできるだけ温存することの両方を考えながら治療方針を決める必要があります。
J.N. Macintyre, J. Pudwell, J. Shellenberger, M.P. Velez. Incidence and factors associated with premature ovarian insufficiency: a population-based cohort study. Human Reproduction. 2026;41(9):1612–1621. doi:10.1093/humrep/deag111.
では、子宮内膜症の患者さんはどうしたらよいのでしょうか。大切なのは、現在の痛みや不妊だけではなく、将来の卵巣機能まで考えて治療方針を決めることです。特に卵巣子宮内膜症性嚢胞がある場合には、必要に応じてAMHや超音波検査などで卵巣予備能を確認し、今後の妊娠希望について早めに主治医と相談することが大切です。
また、手術には症状改善などのメリットがある一方、卵巣機能への影響も考慮する必要があります。妊娠を希望する時期がまだ先の場合でも、年齢、卵巣予備能、病変の状態によっては、将来に備えた卵子凍結など妊孕性温存について相談することも選択肢になります。子宮内膜症があるから必ずPOIになるわけではありませんが、将来を見据えて早めに自分の卵巣の状態を知っておくことが重要です。
卵子凍結も一つの選択肢となるかと思います。





