MotoGP/オーストリアGPのアクシデントについて | 坂田和人 オフィシャルブログ Powered by Ameba

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MotoGP 第5戦 オーストリアGPの映像を見直すと、何度見ても恐ろしい出来事でした。

私も過去にオーストリアGPの際、レッド・ブルリンクでレースをした経験がありますが、レッドブル・リンクはコースレイアウト上、二次災害が起こりやすいサーキットかもしれません。

 

Moto2クラスの決勝レースで、第1コーナー立ち上がりで転倒したバスティアニーニとバイクがコース上に残ってしまい、他車がバスティアニーニのバイクに乗り上げて多重クラッシュとなり赤旗中断となりました。

Moto3クラスのフリー走行で、鳥羽選手が第1コーナーの立ち上がりで転倒した際もバイクとライダーがコース上に残されて、あわや接触・追突という場面がありました。

これらは、コースレイアウト上の問題点でもあると思います。

 

また今回のMotoGPクラスで起こった第3コーナーのアクシデントでも、同じようなことが言えると思います。

過去に私が参戦した時でも、第1コーナーや第3コーナーは、コース上にバイクやライダーが残ることがありました。今までに大きな事故に繋がっていなかったことが不思議なくらいです。

 

まずは、MotoGPクラスとMoto2クラスで接触転倒した当事者と周りのライダーが大事に至らなかったことが不幸中の幸いだったと思います。

 

 

MotoGPクラスの赤旗中断の原因

 

MotoGPクラスの motogp.com (公式HP) の記事とレース映像を何度も見直しました。

 

ザルコとモルビデッリの衝突直前と直後の映像を画像にしたものです。場所は第2コーナーから第3コーナーです。前はロッシとビニャーレス、後はリンスとビンダー。

 

【画像1】ザルコがモルビデッリのスリップストリームを使い、第2コーナーの進入でイン側の白線ギリギリを通過して、結果的にモルビデッリを押し出すようにパッシング。(ザルコに押し出す意図はなかったと思うが、結果的に映像ではそういう動きになっています)

 

【画像2】パッシングした時の進入角度が悪く、第2コーナーで上手くバイクを曲げることが出来ず一気に膨らんでしまいます。モルビデッリはザルコに抜かれたことにより、進路を変えることが出来ず、ザルコと共に外側へ膨らみます。

映像で見ると良く分かるのですが、前のビニャーレスとロッシがバイクを曲げていくところで、ザルコはバイクの向きが全く変わっておらず、外側に吸い寄せられるような動きでした。

 

【画像3】衝突直後。直後の第3コーナーに対してのライン取りがキツくなっています。これは第2コーナーでのパッシングした時の進入角度が原因で走行ラインが大きく膨らんだことが言えるでしょう。

 

<画像1/ザルコは第2コーナー進入のイン側にある白線ギリギリを通過>

<画像2/第2コーナーへの進入角度が悪かったため一気に外側へ膨らむ>

<画像3/衝突直後。第2コーナーで上手く曲がれなかったため 第3コーナーに対してのライン取りがキツくなっています>

 

ザルコとモルビデッリの前を行くビニャーレスとロッシの左側 (画像左側) についたタイヤ痕 (ブラックマーク) は、パッシングしてきたライダーやブロックライン、もしくは少しラインを外してしまったライダーのタイヤ痕。

通常の走行ライン時よりもバイクを左に寝かしているので、タイヤ痕も残りやすいのです。ザルコとモルビデッリは、それよりも更に左側で接触していることが分かります。通常の走行ラインは、ビニャーレスとロッシの右側にある薄いタイヤ痕のところです。

 

こちらが衝突が起こる数周前の映像です。若干カメラアングルが違いますが、通常、多くのライダーが濃いタイヤ痕の右側 (濃いタイヤ痕からバイク1台~1.5台分を空けた右側) を走行しています。

<24 LAPS TO GO (決勝レース28周)>

 

 

重要なことは、ザルコがモルビデッリを抜く際にスリップストリームを利用したが、無理な角度で第2コーナーへ進入しました。そして、ザルコはスリップストリームから出て直ぐにモルビデッリの走行ラインに上に入り (モルビデッリの直前に入り)、その直後にザルコがブレーキングを開始したことです。

 

300kmを超えるスピードで前走者を追い越した直後に、後続ライダーの逃げ場 (ライン) を残さずブレーキングを行ったことが、今回の大きな衝突転倒に繋がったと思います。

それが、300km以上のスピード域で行われたらと思うとゾッとします。(ここでの最高速は315kmを超えています)

 

例えば、高速道路で車を運転中、急に他の車が前に割り込み、その直後に割り込んだ車に急ブレーキを掛けられたら、自身の車を正確に停止することが出来るでしょうか?

 

トラックの前に割り込み、目の前の信号が赤だからといって急ブレーキを踏み、トラックに追突される事故は多くあります。

このような事故の原因は、自分と同じように後続の車も同じように停止できると思い込んでいることです。トラックの場合、積載量などにより停止距離は大きく変わります。最近の乗用車にはABS (アンチロック・ブレーキ・システム) が備わっていることも多く、制動距離はトラックよりも短くなるでしょう。

 

停止距離」は、制動距離 (車の制動性能により変化) + 空走距離 (操縦者がブレーキを掛けようと頭で判断しブレーキがかかり始めるまでの時間) のトータル距離です。

 

以前の道路交通法では、追突事故の過失割合は、追突した車両に100%の過失があると言われていました。しかし、現在の道路交通法では、前の車両が急ブレーキを掛けたりすること自体にも罰則が科せられるようになりました。

停止距離は、車種や車体、操縦者のスキルにより大きく変化すると言うことで、このように罰則が変更したのではないでしょうか。

 

話を戻しますが、

一見、MotoGPライダーのブレーキの掛け方は皆同じように見えますが、MotoGPライダーでもブレーキの掛け方や握り方はライダーによりさまざまです。

初期のブレーキ入力から「ガツン」と握り込むライダーから、初期のブレーキ入力は緩やかに掛け「奥で強く握り込む」など、ブレーキの掛け方、シフトダウンのタイミング、トラクションコントロールの設定など幅広く、それにより減速のタイミングが大きく異なります。

これはライダーのライディングスタイルや好み、車体やブレーキ関係、足回りのセッティングなどにより変化していきます。

 

ザルコがmotogp.comから配信したコメントで「チームは、テレメトリーにより、3コーナーでのブレーキングが、インシデンが発生する前までのラップと比較して、モルビデッリのブレーキングに害を及ぼす意図がなかったことを発表した。」とあります。

 

要する「いつものブレーキングポイントでブレーキを掛けた」と言いたいのでしょう。しかし、その直前のシュチュエーション (第2コーナーの進入角度や他車を抜いた直後のブレーキング) がいつもとは違ったはずです。

また通常、抜かれるライダーは抜かれる準備をする必要がありますが、今回の場合、ザルコの位置関係やバイクの角度やスピードレンジから考えると、おそらくモルビデッリは考える間もなく成す術がなかったことでしょう。

 

ザルコ:「ブレーキングで衝突し、僕たちは吹っ飛んでしまった」<motogp.com>

 

 

憶測ですが、ザルコが接触したライダーに駆け寄ったのも、心のどこかに「やってしまった」という思いがあったのではないでしょうか…。

 

転倒連続写真より抜粋 <motogp.com>

 

そして、ザルコがモルビデッリをパスする際、モルビデッリの真横を通った瞬間、モルビデッリのバイクはサイドスリップにより不安定となり、ザルコがモルビデッリの前に入った瞬間、モルビデッリはザルコのスリップストリームにより車速が急激に伸びます。

そのタイミングでブレーキングをされては、いくらMotoGPライダーと言えども前走者を回避することは出来ないと思います。

 

前後のスリップストーリーム以外に、抜かれる際・抜く際は、横にバイクが並んだ時に起こる「サイドスリップ (サイドでのスリップストリーム)」があります。

 

例えば、高速道路でトラックなどの大型車両 (特にバスや箱形の大型トラック) が勢い良く真横で抜いてくると、自身が運転している車が不安定 (風にあおられたような感じ) になった経験はありませんか?これがサイドスリップによるひとつの現象です。

 

モルビデッリ:「変更された走行ラインとスリップストリームで行き場を失った」<motogp.com>

 

 

通常、今回のようなシュチュエーション (割り込む形でのブレーキング) でのパッシングとなった場合は、相手 (後続) のラインを残す、逃げ場を作る、もしくはパッシングしないことでしょう。

 

私がサーキットのアドバイザー・MFJロードレースアカデミー・スカラシップ・スクールの仕事などで、スリップストリーム使用後のパッシングの注意点として参加者に伝えていることでもあります。

 

あくまで主観ですが、「ザルコの自分本位な走り」と受け取られても仕方のない走行により、今回の衝突を招いてしまったのではないでしょか。単純な追突以外は、追突される方にも原因があるということです。

 

モータースポーツ (特に二輪) は、常に高いリスクを伴いながら行っているスポーツなだけに、他のライダーをリスペクトし、常に逆の立場になった時のことを考える必要があったのではないでしょうか。相手をリスペクトし、安全面を考慮した最低限の距離感があるはずです。

 

ロッシ:「信じられないほどのスピードで僕の目の前を通過した」[2戦連続の5位でゴールした後、当事者のザルコとモルビデッリと話したことを明かした」<motogp.com>

 

 

幸いにもロッシとビニャーレスの広い視野が、今回の二次災害を防いだのかもしれません。

特にロッシは時間差で飛んで来たモルビデッリのバイクとザルコのバイクの2台を直前で交しています。第3コーナーに入る瞬間、ロッシが右側から滑ってくるバイクをチラ見しているような映像がありました。

 

フォトギャラリー〜転倒連続写真

 

 

転倒連続写真より抜粋 <motogp.com>

 

二次災害を免れた彼らのテクニックと、もしかしたら運の強さもあったかもしれません。本当に全員が無事で良かったです。

 

主観ですが、今回のような接触などを抑制することと、ライダーの安全を少しでも多く確保するという意味では、現状よりも接触によるペナルティーを厳しくした方が良いと思います。

日本の SUPER GT (四輪のレースカテゴリー) の方が、MotoGPより厳しい罰則があるように感じます。

 

敢えて言わせて頂きますが、ザルコ選手のことが嫌いで今回のことを書いている訳ではありません。

 

警鐘という意味で、MotoGPクラスに限らず Moto2・Moto3クラスの全クラスで、ペナルティーの見直しをする必要があると思います。

また今回のサーキットは、コースレイアウトも問題になっていると思うので、コースレイアウトとエスケープゾーンの見直しが必要なのではないでしょうか。

 

「誰が良い悪いではなく」、今後、取り返しのつかない重大なインシデントが起こってほしくないからです。

 

 

先日のオーストリアGPの決勝レース内容について、フォロワーの方からコメントを頂きましたが、決勝レース内容については、全て<motogp.com>からの転載です。

公式HP発表のため、敢えて記事の内容は一切変更しておりません。ご理解頂けましたら幸いです。

画像に<motogp.com>とクレジットが入っていれば、<motogp.com>からの画像です。

文章に<motogp.com>とクレジットが入っていれば、<motogp.com>からの転載です。

予選・決勝リザルトに<motogp.com>とクレジットが入っていれば、<motogp.com>からの転載となります。

 

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Twitter <@kazuto_sakata>

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