過去を振り返っていろいろと考えるというのは自分の人生そのものを味わうことでもある。その味わいの深さは人生の後半生にある。若いときの思索は、これから始まる人生の道の足ならしのようなもので、自分の生きる方向を見定める思索である。人生の後半生から始まる思索は、人生を思索するよりも、人生そのものが一つの思索と化す。そして私という人生の作品を創りだすのである。『五輪書』は宮本武蔵の人生そのものが思索と化し、作品として創りだされたものである。