A

電気グルーヴ「A (エース)」

リリース : 1997年
ジャンル : 野球ディスコ

電気グルーヴが本気を出したアルバム。電気グルーヴがノリにノッていた時期に出したアルバム。電気グルーヴがアドレナリンを出したアルバム。電気グルーヴが萌えないゴミの日に出したアルバム。電気グルーヴが下半身を出しそうで出さなかったアルバム。という出しまくりなアルバム(笑)ですが、電気グルーヴの集大成的アルバムです。「FLASH PAPA」のようなパワーも、「UFO」のような歌ものメロディーも、「VITAMIN」のようなミニマルやアンビエントっぽい要素も、「DRAGON」のようなもろテクノな感じも、「ORANGE」の"押忍、軽くキちゃってます"な感じも、全部含まれているような気がしますね。

歌詞のぶっ飛んだ感は、初期に比べれば大人しめですが、それを補うようにサウンドはぶっ飛んでいます。その精神は、まさにガマガエルを手掴かみディスコでうたた寝状態!

特に顕著なのは「VOLCANIC DRUMBEATS」。大爆発 大噴火で吹き出すドラムに、大恐慌 大往生 大統領 or die (アボジ!) なサウンド。これがツッパりそうでツッパらないハイスクールな曲でぶっ飛んでます(笑)。卓球さん、プログラミング大変だったろうなぁって思うほど、音数が多いです。

その大噴火の後に、なぜかミニマルなポケットサイズのカウボーイ登場!長い旅を経て ホコリがつもちゃいます。そのどうしようもない空気に、「ユーのネヴァー」の粘着性のあるサウンドで、体中がネバネバァー。早く洗わネヴァーなカオス曲です。

"まりん"こと砂原氏の作曲が炸裂する「パラシュート」は前半はカッコいいブレイクビーツな曲。後半は愉快にパラシュート落下。何かあるかと最後まで警戒していましたが、結局何もなく、この曲は無事、かっこよく着地に成功しました。

が、しかし。着地した場所が悪かった。そこは、ガリ曲署。当然そこには、勤務しているガリガリ盛りのガリガリ君もいます。ガリガリの刑に処されたくなかったら、ガリガリ大学に合格しなければいけません。こうして明日のあすなろなヒノキの木を目指す生活が始まりました。ピエール瀧さんはこの「あすなろサンシャイン」ためにヴォイトレに通ったそうです。

いつの間にか夢でKiss Kiss Kissしていたのは、「Shangri-La」な世界。サンプリングセンスが素晴らしい。この曲はメロディ重視のためか世間一般的には代表曲となっています。電気グルーヴで一番売れたシングル曲ですね。

こんなどこまでも混沌とした統一性のないテクノなアルバム。(でも曲順はよく考えられているぜ、ベイベー!)10曲目まで聴けたら、たいしたもんです。これで君も、ガリガリ大学 合格ぅぅぅぅぅ!です。でも気を抜いちゃいけません。そこへ間髪入れずに、ガリガリミサイル発射ぁぁぁぁぁ!的な、めくるめく展開にループゾンビになること必至ですぜ!そこの旦那っ!

ここまで、アルバム聴きながらレビューを書いていたんで、ハイテンションなレビューになりましたが、ここから、ちょっとテンションを下げて書きたいと思います(笑)。

まりんが言った「パーフリのヘッド博士を超える作品を作ろう」発言や、電気グルーヴの「世間を見返してやろう」というモチベーションの高さが、このアルバムの完成度を上げ、電気グルーヴ最大の売り上げになりました。この作品で、電気グルーヴがかつていた"虹"の中から抜け出せました。が、それと同時に、電気グルーヴの音楽に解毒作用のある作曲を担っていた砂原氏が、このアルバムの完成度の高さと音楽性の違いから脱退することになります。(よって、次作の「VOXXX」では卓球氏と瀧氏のやりたい放題に。)まぁ、その後、砂原氏は「LOVEBEAT」で、電気グルーヴは「J-POP」で、最高の音楽を作るわけですが。これはこれで良かったことでしょう。電気グルーヴの作品にもちょくちょく砂原氏が参加してますし。

ってまあ、こんな感じで書きましたが、電気グルーヴがスゴいのは、外国のテクノをJ-Popと融合させて聴きやすくさせ、日本にテクノを浸透させたことじゃないでしょうか。それと同時に、メインストリームとは違うんだぜ的な音楽で、一部のコミュニティを形成して、いろいろな既存の音楽に対する優越感というか差異化をはかったと思います。そういう流れを作った電気グルーヴのひとつの到達点ということで、邦楽史上、重要なアルバムになるんでしょう。(個人的には「DRAGON」と「イルボン2000」が好き)

このアルバムのリミックス版「recycled A」もあります。こちらは海外の有名ミュージシャンがリミックスしちゃってます。面白いデキなんですが、ちょっと玄人向けかも。このアルバムを聴いてダメな一般人は、手を出さない方がいいです。お金をドブに捨てることになります(笑)。逆に、純粋な海外テクノ(デトロイトテクノ、ジャーマンテクノ、UKテクノ)が好きなマニアは、神棚にまつることになるでしょうね。